第2回 スタッフ採用と教育、多職種連携
2017年に東京・三鷹市で開業した医師の田中公孝氏(ぴあ訪問クリニック三鷹 院長)へのインタビュー。第2回では、在宅医療を目指す医師たちの関心が高かった人材についての話を紹介する。
理念に共感してくれる人を採用するため院長面接は必須
オープニングスタッフを一般募集して採用するという形ももちろんあると思いますが、自分の“カラー”をわかって働いてもらうために、1人か2人はリファラル(縁故)採用を考慮した方がいいと思います。他の開業医の先生方に話を聞いても、やっぱり初めはリファラルが多いようです。私自身、新規採用したスタッフに1日で辞められてしまった経験があるように、採用には失敗がつきもの。「華々しい経歴や豊富な経験に惹かれて採用したけれど、結局は長続きしなかった」という失敗もよくある話です。新規開業は要するにベンチャー企業と同じですから、福利厚生が整っているわけでも、ブランディングが確立しているわけでもありません。立ち上げにとても興味があるなど、何か“思い”がある人でないと続かないという側面があると思います。
そこで大切なのが理念経営です。大前提として「私たちはこういうことがやりたい」というクリニックとしての理念をしっかり掲げ、採用にあたってはその理念についてきてくれるスタッフを探そうと意識すること。今から思えば、面接で「なぜこのクリニックに来たのか」「どういうことがやりたいのか」というところがボヤッとしていた方や方向性が違っていた方たちは、短期間で辞めてしまいました。結局は、理念に共感してくれる人でないと長く一緒に働くことはできません。表面的に共感しているだけなのか、それとも深く具体的に共感してくれているのか、院長である私自身が面接してスクリーニングしないと、ミスマッチが起こります。そこに行き着くまでに、私もだいぶ試行錯誤しました。
それから、見学先のクリニックで採用の方法について質問すると思いますが、大手の場合は採用担当を置くなどして仕組み化しているので、新たに立ち上げるときとはやり方が違うと思ったほうがいいでしょう。
スタッフは教育するだけでなく「一緒に作っていく」意識も
採用したら次はスタッフ教育も大きな課題ですが、最近改めて思うのは、教育的な部分と「一緒に作っていく」部分の両方があるということです。特に在宅医療を立ち上げたばかりのときは、立ち上げメンバーに相談することがとても重要。例えば「先生」という立場の私に対しては患者さんやご家族、ケアマネさんたちが見せない部分がどうしてもあり、自分ではなかなか気づくことができないのですが、スタッフは気づいてくれる。そこを共有してもらいどうすべきかをスタッフと一緒に議論する、ということを繰り返してきました。どうしたら患者さんの確保につながるか、どうしたらいいケアができるか。みんなで話し合うことで答えを導き出すための材料を揃え、その材料を踏まえて院長である自分が結論を出します。自分一人で材料を捻り出してちょっと方向性を誤ってしまった、という経験もあったので、スタッフと一緒に作り上げていくことを意識するようになりました。
一方、教育するというか私のやり方としてこれを意識してくださいとお願いしたのは「先回りする」「急変を予防する」といったこと。立ち上げ当初は体制が整っていないこともあり、次々に容体が急変する患者さんの対応で手一杯といったことになりかねません。そこで後手後手にならないよう、常に患者さんに今後起こりうることや懸念されることを見極めて、早めに準備しておきたいのです。例えば、慢性心不全で浮腫が起きやすい患者さんの場合、ご家族やケアマネさんに体重測定するようお願いし、あらかじめ頓服薬として利尿剤を置いておく。そして一定以上の体重になったら報告をもらい、利尿剤を服薬するよう指示を出すことで心不全の増悪を抑えているケースもあります。こうした工夫を私だけでなくスタッフにも意識してもらうようにしています。
よりよい多職種チームづくりには“目線合わせ”が欠かせない
在宅医療では訪問看護ステーションや地域包括支援センター、薬局など地域の事業所との連携が欠かせませんが、こうした外部の連携先と目線を合わせることがとても大切です。実は、新規の在宅医療クリニックに依頼が来るというのは、他から断られてきたケースが少なからずあります。それまでお付き合いのあったチームをわざわざ外して新しいところに依頼するというのは、やはり何らかの事情があるわけです。それを乗り越えるだけでも最初は大変なんですけど、初めて一緒に仕事をする多職種の事業所やスタッフですから、やり方が合わない、足並みが揃わない、ということがあるのは致し方ないところ。そうした障壁をなるべく早い段階で解消する、つまり“目線合わせ”の作業が大切で、やはりこれもコミュニケーションを重ねることでしか解決できません。医師として仕事をしていると忙しさのあまり、「今のところ患者さんの状態も落ち着いているし、何か起きてからでも、まぁ、いいかな」と流してしまうことがあるかもしれないのですが、それが積み重なるとコミュニケーションエラーを起こしてしまう。立ち上げたばかりの時期ではスタッフも少なく仕組みもできていないため、こうした職種間の目線のズレがダイレクトに患者さんのケアに響いてしまいます。先ほど述べた「先回り」は患者さんの容体のことだけでなく、スタッフ間の連携においても大切なポイントなのです。
取材・文/金田亜喜子
(第3回に続く)