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在宅医療スタートアップ企画(10)インタビュー編 小林正宜氏「在宅医療立ち上げの挑戦」

第4回 これから始める医師へのアドバイス

▲小林正宜氏(葛西医院・院長)

現場を数多く見ることで、自分の目指す在宅医療の形が見えてきた小林正宜氏(葛西医院 院長)。第4回は、立ち上げ時1名だった在宅患者が1年8カ月後には居宅在宅患者70名になった経緯を紹介する。

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退院前カンファレンスや初回訪問が重要

 これから在宅医療を立ち上げたいと思っている医師に知っておいてほしいのは、まっとうな医療をまっとうにやっていれば、ちゃんと患者さんが集まってくるし、普通の収益は上がるということです。そのためには、まっとうなことをやっているということを連携先に知ってもらうことが大切です。勉強会はもちろんですが、退院前カンファレンスや担当者会議にも参加するといいと思います。もしかしたら面倒に思われるかもしれませんが、多職種が顔を合わせる場はその後のケアをとてもスムーズにするだけでなく、自分の意見や診察スタイルを知ってもらうことができる貴重な機会です。同席した他職種に「この先生ならまたお願いしたい」と思ってもらえれば、次の患者さんの紹介に繋がることもあります。
 初回訪問も大切にしています。退院前カンファレンスがない患者さんは特にそうですね。初回訪問はケアマネジャーさんが同行されることが多いのですが、そこで僕の診察スタイルを見てもらえます。初めての患者さんには短くても40〜50分、長い時は1時間半くらい時間をかけるのが僕のやり方。長いと思われるかもしれませんが、見たことのない先生が家に上がりこんで来て、関係性ゼロからのスタートでしょう。そこでいきなり信頼しろと言われても無理な話だと思います。ですから診察も説明もじっくりしますし、患者さんとの会話になるべく時間をかけます。それを見たケアマネジャーさんが、この先生なら安心して任せられると思ってくれると、ケアマネジャーさんとのコミュニケーションがスムーズになり、良いケアに繋がりますし、他の患者さんを紹介してくれたりもします。
 あと、基本的に依頼は断らないようにしています。一度断ると次がこなくなることもあるので。もちろん物理的に引き受けられる限度はありますけれど。

必死に取り組んでいけば自然と道は開ける

 僕の場合、在宅医療立ち上げ当時の在宅の患者さんは1人だけ。継いだ当時は赤字で借金も結構あるような状況でした。建物も古くて資産価値もあまりなく、追加投資もできる状況ではありませんでした。3代目なので地元での知名度はありますが、駅から遠いこともあり、外来の患者さんは半径200〜300mくらいの範囲の高齢の方に限られています。少し離れたところで在宅医療が必要な患者さんがいても、自院の名前は知られていませんので依頼は来ませんでした。このまま本当に赤字を解消できるのかと不安に思っていましたが、本当に自分がやりたい医療を必死で実践しているうちに、患者さんが着実に増えました。広報的なことはホームページを作ったくらいなのに、紹介が紹介を呼び、今では在宅の患者さんが居宅で70名ほど、在宅でのお看取り人数は40名ほどになりました。
 僕だから上手くいった、というわけでは決してなく、患者さんに寄り添える医師なら大丈夫だと思います。この地域もそうですが、在宅医療のニーズの方が供給よりも多い地域は少なくないはずです。そのような場所で魅力的な在宅医療を展開すれば患者さんは集まるのは間違いありません。とは言いながらも、僕は自院の患者さんだけを増やしたいわけではなく、患者さんに寄り添い、多職種ときちんと連携できる診療所が増えて欲しいと思っています。そうすると、相対的に当院の患者さんは減りますが、患者さんの在宅医療へのニーズは満たされ、在宅でのお看取りも当たり前にできるような地域になるかもしれません。そのような社会になることを心から願っています。
 新しく在宅医療を立ち上げると、大変なこともありますが、その苦労は絶対に財産になります。まずは始めてみること。それにつきますね。

(了)

取材・文/清水真保

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