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在宅医療スタートアップ企画(11)インタビュー編 守上佳樹氏 「“医師以外”の自分でチャレンジ」

第1回 勤務医時代の原体験が開業のきっかけに

▲守上佳樹氏(よしき往診クリニック・院長)

在宅医療を目指す医師をサポートするための本連載、インタビュー編の3人目は守上佳樹氏(京都市西京区 よしき往診クリニック 院長)。居宅率97%、患者数約280人を支障なく訪問するための独自のシステムやスムーズな病診連携、人材確保についての守上氏の熱い思いを4回にわたって紹介しよう。

守上佳樹(医師)/よしき往診クリニック 院長
日本内科学会認定内科医、日本老年医学会認定老年病専門医。京都府医師会若手医療ビジョン委員・地域ケア委員、西京区介護認定審査会委員、京都府警察医(西京警察署)、「all西京栄養を考える会」顧問。京都の総合病院や総合内科で勤務後、2017年4月、よしき往診クリニックを開業。

勤務医時代の衝撃で志した在宅医療

 僕が在宅医療を始めようと思ったきっかけとしては、勤務医時代の原体験が大きいです。それは自宅で患者さんが亡くなったというコールがあると、ほとんどのケースで警察沙汰になるという現実を目の当たりにしたこと。開業後、医師会に依頼されて地域の警察医も務めるようになったので、よりそういう場面に遭遇するようになったのですが、皆さんの大切な人が、万が一、家で亡くなっているのが発見されて救急要請すると、老衰が原因の自然死でも検案が必要になってしまう。検案の後もかなり衝撃的で、冷たいステンレスの場所からご遺体が出てくるのです。髄液を取るので、脊髄腔に何回も針も刺しています。ショッキングなことですが、現実問題として、老若男女、有名無名を問わず、どんな人にでも起こりうることですよね。
 本人はもちろんこんな最期になるとは想像もしなかったでしょうし、家族にとっても大きな心の傷になる。ただこれは、地域に在宅医療が浸透してきたら避けられるかもしれないことの一つだと思います。穏やかな最期を迎えて、「よく頑張りましたね」と声をかけられる看取りを実現するためには、自分で仕組みを作るしかないと思い、開業を決意しました。その頃は重症患者を24時間で受け入れられる在宅医療の体制が、西京区や右京区ではまだまだ整っておらず、一部の孤軍奮闘されている外来中心のクリニックの開業医の先生方に大きな負担がかかっていました。

実家のクリニックを継ぐことは挑戦的な意味で選択肢になかった

 父は大阪市旭区で開業しているクリニックの2代目で、区の医師会長も2期務めています。僕は長男なので普通は跡を継ぐのが自然な流れなのでしょうが、僕としては父を超えたいという気持ちが強かった。もちろん継いだとしても、地域を巻き込み気合いを入れてガンガンやるとは思います。医師会長にもなれるかもしれません。でも目の前で父を見ているだけに、自分の人生が、自分の想像の範囲からは大きく逸脱しなくて、20年後、30年後の自分がイメージできてしまう。父と肩を並べることはできるかもしれませんが、父を超えた!すごいね!と自分で自分に言えることにはならないかもしれない。それなら父とは違う分野、形態で、ゼロからスタートした方が、自分の人生としてはいい。
 そういうわけで継がなかったのですが、かといって父との関係が悪いわけではありません。今でも週1回、実家のクリニックへ手伝いに行っていますし、コラボレーションしながら、新しいことを立ち上げようとしています。
今でも尊敬している人は、「父」です。

縁があって好きになった西京区で開業

 西京区で開業したのは、勤務医をしていた病院と同じ地域だったからです。在宅医療の面で困っているエリアだということはわかっていましたし、働いているうちに好きになったのです。開業にはかなりパワーが必要なので、場所を決めるにあたってはマーケットや人口分布などの問題とは別に、自分の「好きな」地域ということも重要だと思います。
 西京区の人口は約15万人と結構多く、隣接する右京区や向日市などを合わせると、45万人くらいでした。当時は在宅医療に力を入れているところがあまりなかったので、45万人規模のエリアをカバーできるなら、しっかりやってさえいれば、まあなんとかなると思ったわけです。
 最初のクリニック設立の場所探しには実は苦労しませんでした。何カ所か見ていたのですが、奇跡的に病院の目の前の土地が突然空いて…。あっ!と思って売り看板が立った2日目くらいに不動産会社を訪ねたら、即決で取得できたのです。病院の前の土地なんてなかなか空かないのに、なんてラッキーなのだと思っていたら、更に病院の真横にある家の持ち主がたまたま同じ病院の人で、僕が開業するということを聞きつけて、「あそこの土地を買ってくれませんか」と話を持ちかけてこられました。もともと病院の目の前で土地を探していたので、ありがたいお話でした。必要な物品なども、京都では在宅医療推進のため、物品の半額までの助成金制度があり、たくさん助けていただいたので、資金面での苦労はあまりなかったですね。
 何もわからない状態で始めたのですが、地域に貢献したい、同じ世代の医師と繋がってより充実した面白いことをしたいという思いを持ってひたすら進んでいたら、結果的にうまくいったという感じです。

取材・文/清水真保

(第2回に続く)

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