【Webセミナー当日レポート】多職種連携における栄養治療のススメ(前編)
2020年11月28日に開催した、栄養介入についての理解を深めていただく「栄養治療のススメ」Webセミナーのレポートをお届けします。
在宅高齢患者にとって、低栄養の改善が、症状の改善や体力の維持、フレイルの予防に重要な要素となることが注目されています。
そのためには低栄養を早期に発見し、栄養介入などの対応が重要です。
今回のWebセミナーは、実際に在宅医療の現場で、多職種で連携しながら低栄養の改善に取り組んでいる医師の事例や、栄養の専門家の意見を聞いて情報交換することで、明日からの診療に取り入れられる知識を皆様に持って帰っていただきたいという目的で開催しました。
申し込み開始時より、大変多くの方に興味・関心を持っていただき、当日までに1,000名を超えるお申し込みをいただきました。
また当日各講演後のQAセッションでは、参加者の方から80件以上の質問が寄せられました。質問には、講師だけでなく、参加者である医療介護従事者の皆様が、ご自分の体験をコメントとして活発にシェアいただき、まさに実体験をわかちあう、双方向の学びの場となり大いに盛り上がりました。
講演第1部 高齢患者の予後を左右するのは栄養介入
講演第1部では、東京都三鷹市で在宅医療を中心に行う「ぴあ訪問クリニック三鷹 」を開業している田中公孝先生が登壇。三鷹市を中心に西東京市、武蔵野市など、人生の最期を自宅で過ごしたい方や、施設へ訪問し健康管理をしています。
栄養介入を行いたいと思っても、実際に何から始めたらいいのか困っている方もいるのではないでしょうか。田中公孝先生のご講演では、これまで患者さんの人生に寄り添い在宅医療に携わってきた実体験から、シチュエーション別の栄養介入実践例を踏まえ、栄養管理の意識変革必要性や、MCS栄養管理アプリの利用などを具体的にお話いただきました。
以下、田中公孝先生のご講演要約
きっかけは「リハビリテーション栄養」
最初に栄養管理の重要性に気づいたのは、東京女子医科大学病院の若林秀隆先生が提唱する「リハビリテーション栄養」との出会いでした。「リハビリテーション」と「栄養」が合わさった言葉で、これはなんだろう?と思い書籍で勉強を始め、外来にも見学に行きました。勉強していくうちに、「どんなにリハビリをしても、栄養という材料がなければどんどん痩せていってしまう」ということに、確かに!と納得しました。「スポーツ選手もプロテインを飲んで体重増加するように、高齢者もリハビリをするために、まずは栄養をしっかり取らないといけない」。本当にその通りだと思ったことがきっかけでした。
高齢者の栄養の考え方をギアチェンジ
高齢者が低栄養で筋力、耐久力が減少してしまうと、感染症、合併症(肺炎、尿路感染症、褥瘡)を発症するリスクが高くなります。また、ふらつきから転倒リスクが高まるので、骨折する危険性もあります。医療者は生活習慣病の指導を叩き込まれてきたと思うのですが、それはあくまでも中高年くらいまでの話。吸収障害や食欲が落ちていく高齢者には、低栄養、フレイル予防として適切なエネルギーが取れるように、せめて痩せにはしない意識を高齢者に関わる医療介護者には持ってもらいたいです。
MCSの栄養管理アプリで多職種全員の栄養意識をアップ
MCSの栄養管理アプリでスクリーニングをすると、低栄養の場合、赤いアラートの結果が表示されます。赤信号のように多職種間で栄養管理の必要性を認識できるのがとても良いです。
医師が患者訪問するのは月に1〜2回ですが、その際に栄養に関して説明するだけでは足りません。患者家族に栄養摂取の重要性に気づいてもらうのはなかなか難しく、ダイエット文化の影響からか、患者家族から「カロリー押さえた方がいいですか?」と質問を受けることもあります。毎週訪問している看護師や、薬剤師が訪問の度にスクリーニングの結果を共有し、多職種から患者さんに栄養を取ってもらうことを発信していけたらいいですね。
アプリは、多職種皆の意識づけを行えるので便利ですね。
シチュエーション別栄養介入実践例
【退院直後で寝たきりのケース】
痩せが進行していたので、ONS(経口的栄養補助)を1〜1.5本/日を処方。食事でも卵、豆腐、甘いものでカロリーを増やし、分食で摂取。結果体重を増やすことができ、杖歩行までできるようになりました。
【癌末期で食べられないケース】
悪液質が進行して食欲不振になっていたので、薬としてステロイドを使用。食欲が上がってきたところにONSと本人が好きな食べ物をすすめたところ、状態が改善。食欲がほとんどない状態から、予後が2ヶ月延びました。その間に会いたい人に会うことや、患者家族に心の準備をしてもらうことができました。
食事は文化であることを忘れない
アイス、高級食材(寿司、うなぎ)、ジャンクフードなど、患者さんが昔から好きだった食べ物を聞いて、食べてもらうことも栄養介入といえると思います。食事は文化であることを忘れず、患者さんの人生に寄りそうコミュニケーションを心がけたいです。
また、栄養介入は実際の現場で体験することが一番です。実は私がONSの処方を意識するようになったのはケアマネージャーさんから勧められたからなんです。皆さんも実際の現場で色々試して、成功体験を作っていってもらいたいなと思います。
(田中公孝先生)
後編に続きます。(近日公開)
【セミナー概要】
■日時 :11月28日(土)16:00~17:10
■対象職種:在宅医療、高齢患者・利用者さんに関わる全職種
■参加方法:オンライン(Zoom)
■講演内容
❶高齢患者の予後を左右するのは栄養介入
┗講演者:田中公孝 先生(ぴあ訪問クリニック三鷹 院長)
❷在宅医療における管理栄養士の役割と今後の展望
┗講演者:田中弥生 氏(関東学院大学 栄養学部管理栄養学科 教授)
■主催
アボットジャパン合同会社・エンブレース株式会社