コミュニケーションツールが支える医療介護者の連携

リエゾンサービスでの骨粗鬆症患者二次骨折予防の取り組み(新潟市・新潟リハビリテーション病院・山口クリニック)

新潟市で地域のリハビリテーション充実をモットーに開院した新潟リハビリテーション病院は、骨粗鬆症の治療や二次骨折予防に国内でも最も早くから取り組み、国際的な評価も得ているリーディングホスピタルだ。「骨粗鬆症リエゾンサービス® (Osteoporosis Liaison Service : OLS)」は多職種連携、病診連携、地域連携を活かした先進的な活動で大きな成果をあげているが、2019年2月、MCS(メディカルケアステーション)と連携したOLS支援アプリ(以下、 MCS連携OLS支援アプリ )運用の試みがスタート。実際に使用してどういう変化があったかを紹介しよう。

▲前列左から新潟リハビリテーション病院院長 山本智章氏、山口クリニック院長 山口正康氏、後列左から薬剤部主任 土田亮氏、言語聴覚士 田村和子氏、看護師・骨粗鬆症マネージャー 星野美和氏

■PROFILE
山本智章(医師)/新潟リハビリテーション病院 院長
新潟大学病院、米国ユタの骨代謝大学研究室を経て、2001年に新潟リハビリテーション病院勤務、2010年より現職。整形外科、特に骨粗鬆症やスポーツ医学を専門とする。患者のQOLを高めるためには多職種によるチーム医療が重要なことに早くから着目しており、骨折患者の二次骨折予防に関する同病院の取り組みは、国内外で高い評価を得ている。スポーツ障害の分野にも力を入れ、予防活動も積極的に行う。

超高齢社会に必須の骨粗鬆症対策(二次骨折予防)

 超高齢社会を迎えた日本では、健康寿命をいかに延ばすかが重要な課題である。高齢者の生活の質の向上はもちろんのこと、社会保障負担費や医療費の削減にも繋がるからだ。
 骨粗鬆症の進行や転倒で高齢者が骨折すると、ADLが低下し、寝たきり状態、要介護状態になりやすい。寝たきり状態が続くと認知症など様々な合併症を発症する可能性も増加する。それを防ぐためにも骨折の原因となる骨粗鬆症対策が重要になってくる。また、一度骨折した高齢者は次に骨折する確率がかなり高くなるため、二次骨折を防ぐことも重要だ。にもかかわらず、骨折後の日本での骨粗鬆症の治療率は20~50%程度とかなり低い。
「我々がまず始めたのが二次骨折予防の取り組みです。日本だけでなく、世界的な課題にもなっていますが、骨折をした患者さんが、二次骨折するリスクが高いのにもかかわらず、適切な治療が行われていなかった。医師も患者さんも骨粗鬆症であることを認識せず、骨粗鬆症の検査もしない、治療も開始されない、治療が始まったとしても退院後の連携ができておらず治療が中断して続かない。最も優先的に治療をしなければいけないリスクの高い患者さんが適切な治療を受けられないという状態が続いていたのです」と院長の山本智章氏は語る。
 そんな状況を解決するための取り組み「リエゾンサービス」は、まずイギリスから始まった。退院したらそれっきりというのではなく、多職種が連携することで、治療継続率を上昇させ、その結果、再骨折率や死亡率が低下できることが実証された。
「日本でもなんとかリエゾンサービスを実現したいと2012年から取り組みを始めましたが、一番の難題は退院後の治療をいかに継続するかでした。骨粗鬆症の検査や評価、治療は病院内でできますが、患者さんが病院から離れてしまうと、施設を移動することも多く、経過を把握して治療を継続するのが困難になる。いかに効率よく、しかも完全に治療を継続するためのサポートができるか。そのためには病院、診療所、介護施設だけでなく、家族との連携も欠かせません。まさに『地域連携』が必要なのです」。

リエゾンサービス=病診多職種連携のスタート

 この課題を解決するため、院長の山本氏を中心に新潟リハビリテーション病院でスタートした「リエゾンサービス」。「リエゾン」とは「連携」「連絡」「繋がり」を意味するフランス語で、患者が退院後もチーム医療の中で、包括的に二次骨折予防のための医療サービスを受けられるというもの。新潟リハビリテーション病院では、退院後の3年間で6回(1か月、3か月、6か月、1年、2年、3年)、患者や患者家族、ケアマネなどに連絡して、治療薬の状況、歩行状況や転倒の有無、食事や運動、痛み、日常生活、自立度や不安の有無などをヒアリングし、客観的に評価を行って対策を立てる。
 正確に患者の状況を判断して骨折予防に繋げるには、患者や家族だけでなく、患者に関わる医療・介護スタッフからの情報を得て共有することが大切で、ヒアリングも上記の他、利用施設の相談員、看護師、介護士など多岐にわたる。

 この活動の中心になるのが、一般社団法人日本骨粗鬆症学会の認定を受けた医療職の骨粗鬆症マネージャーで、1)患者の再骨折リスクの評価 2)骨粗鬆症患者や家族への指導、啓発 3)院内外、各職種間の連携コーディネート 4)スタッフへの教育、啓蒙、モチベーションの維持・向上を図る という役割を担っている。「二次骨折のリスクが高い大腿骨近位部骨折の患者さんから始まり、椎体骨折の患者さんまで対象を広げて、今では500名以上の方と繋がっています。リエゾンサービスに加えて『再骨折予防手帳』が果たす役割も大きいですね。これを使うことで多職種も、患者も家族も『再骨折をしない、させない』という目的を全員ではっきり共有し、それぞれが具体的に何をするかが可視化できるようになりました」(山本氏)。

 再骨折予防手帳を見れば必要な診察やケア、それを誰が担当するのかがわかるため、多職種にとっても患者にとっても、治療や予防策を継続するための具体策が確認でき、また大きな励みにもなる。 
 骨粗鬆症治療開始率や継続率の向上に大きく寄与したこれらの取り組みが高く評価され、国際骨粗鬆症財団が行う「脆弱性骨折の二次骨折予防の取り組みに対する認定制度」で、日本で初めて2016年に銀賞認定を受けたのに続き、2019年6月には最高位の金レベルに認定された。この制度は骨粗鬆症に対して「骨折患者の二次骨折予防のための骨折後の評価や治療」「二次骨折予防のための追跡調査・予防活動システム」などの13項目を同財団が審査し、国際基準で評価認定を行うもの。名実ともに骨粗鬆症治療、二次骨折予防のリーディングホスピタルとしての地位を国内外で確立したといえる。

▲新潟リハビリテーション病院の看護師・骨粗鬆症マネージャー星野美和氏を中心に実施されているリエゾンサービスで、MCSを多職種間のコミュニケーションツールとして用いる試みが始まっている

リエゾンサービスアプリ化( MCS連携OLS支援アプリ )の試み

新潟リハビリテーション病院のリエゾンサービスの手段は、これまで主に電話やファクスだったが、現在、MCS連携OLS支援アプリ(以下、MCS)を活用する試みが現在行われている。対象は同病院と連携している診療所が訪問診療を行っている患者5 例。前述したヒアリング内容に加え、患者情報や検査値なども多職種間で共有される。具体的には、骨折患者5名に対して、病院勤務医師、診療所医師、薬剤師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療相談員、管理栄養士、臨床心理士などの多施設多職種が参加してMCSに患者グループを作成。MCSに服薬状況、歩行状況や転倒の有無、食事や運動、日常生活、自立度などを入力し共有した。加えて、多職種が検査値や訪問時の患者情報などをMCSに書き込み、共有・対応した。これまでの仕組みにICTツールを組み入れるという6カ月の期間ではあったが、参加した多職種や患者・家族の反応は概ね良好だったといえる。

▲ 今回使用されたOLS支援アプリのイメージ。MCS上で検査値や聞き取り調査の項目の入力と共有が行える                                       
*上記イメージはサンプル用に作成されたものであり、実際に使用されたMCSの画面ではありません。記載された顔写真や姓名、疾患名、数値情報等は架空のものです

 MCSの場合は、入力した瞬間に同じグループの参加者全員に情報がリアルタイムで伝わるスピード感がある。実際にMCSを利用している山口クリニックの院長、山口正康氏にMCSを使用して何が変わったのかを聞いてみた。「かかりつけ医として思うのは、再骨折は患者さんが幸せに生活をするチャンスを奪うことになるということ。しかし、薬をちゃんと飲んでいるのにもかかわらず骨折し、その原因がはっきりわからないこともあります。実際に往診してみると、つまずきやすい住環境、家族の無関心、食事をきちんととっていないなど、診察室の短い時間だけでは気が付かない要因があることがわかります。今までも訪問診療時に感じていたことですが、MCSだと、その場で見たことや感じたことを他の職種に発信し、それに対する反応が得られます。在宅訪問をしていない専門職、例えば栄養士さんやリエゾンナースさん、理学療法士さんなどが、見てくれている安心感や、その人たちの情報が得られる安心感は大きいですね。『既読』がつくだけでも見てくれているのがわかりますし」。
 骨粗鬆症マネージャーの看護師、星野美和氏は「患者さんの細かい様子がすごくわかるようになりました。今まではご家族から聞くだけで、詳しいことがわからなかったりしていたのが、気持ちの部分まで理解できるようになったのがよかったですね」と話す。「患者さんの退院時には院内のチームだけでなく、院外にも支えるチームがあることをお知らせしていますが、MCSを使うとそれが『見える化』できて、それがご家族の安心感に繋がっていると感じています」と、安心感も挙げた。

▲骨粗鬆症マネージャーを務める看護師の星野美和氏

「昨日往診に行った先で、これだけの人がちゃんと見てくれているよ、とMCSのグループに参加しているメンバーの一覧(顔写真)を見せてあげると本当に喜んでくれましたね。星野さんの写真を見てどうしても伝えたいことがあるとおっしゃるので、私の入力画面に音声入力してもらったら、『星野さんに感謝してます』と。新潟訛りだったので、変換がわかりにくかったかもしれませんが、気持ちは伝わりましたよね」(山口氏)。それに対し、「確かに変換はおかしかったですが、ご本人の書き込みだとすぐ分かりました。思いもかけないときに、患者さんのそのままの言葉が見られたのが、すごくうれしかったです」と星野氏も笑顔で話した。

▲患者からの感謝の言葉が嬉しかったと言う星野氏

 デイサービスから情報が得られた例もあった。転倒しないためには筋力も必要だが、退院後、狭い空間で暮らしているとどうしても筋力が落ちてしまう。「患者さんが通うデイサービスでの筋力トレーニングの様子や、『ちゃんと立ち上がって十分動いていますよ』という書き込みをみると、私が知らない患者さんの状態が把握できるのもありがたいです」(山口氏)。

▲院外での患者のリハビリの様子などもわかるようになった
▲訪問診療の様子など様々な情報をMCSで共有
▲「患者の日常に接しているかかりつけ医は、再骨折させたくない思いが本当に強い」と語る山口クリニック院長 山口正康氏

MCS連携OLS支援アプリのパイロット運用を振り返って

 今回、MCS連携OLS支援アプリ(以下、MCS)のパイロット版を利用したのは新潟リハビリテーション病院の医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、連携する診療所の医師など。アンケートや取材で明らかになった、MCSについての意見をまとめてみよう。

(以下、アンケート結果より抜粋)
●全体についての感想
・院内外の多職種とリアルタイムで繋がれる、患者の状況や問題に対する対処が共有できる、お互いの信頼関係が強くなるなどの面から、地域包括ケアをサポートするツールとなれる
・目的は二次骨折予防だが、高齢者の日常の状況が多職種で細かく把握できることから、健康長寿の延伸や、自立を高めるためのツールとしての役割も果たせる
・転倒や転倒に起因する怪我に関する情報、運動状況、食欲や栄養バランスなどがわかる
・患者の服薬している薬の種類や服薬状況がわかる
・場所や時間に縛られずコミュニケーションが効率的に取れる
・患者の院外の状況を把握でき、タイムリーに対応できる
・電話やファクスではなく、スマートフォンやPCで情報共有ができる

●課題
・高齢者は骨粗鬆症だけでなく他の疾患を抱えていることが多いが、その場合、新潟リハビリテーション病院以外の病院とも連携が取れるかどうか。特に他の疾患で処方されている薬に関してup-to-dateのやりとりができるようにしたい
・患者の食事内容や食事形態を管理栄養士がチェックしたり、リハビリのメニューをアプリに入れたりして参照できるといい。退院カンファレンス時に伝えてはいるが、時間が経つと忘れてしまったりするので
・実際に運用が進めば進むほど、グループが膨大になる。患者数、提携する病院や薬局、介護施設も多い。その全てでネットワークが作れるかどうか
・地域性や病院の規模もあり、事情はさまざま。欲しい情報が実際に役に立つことを実感してもらわないと、広がらない
・個人専用端末でないと、使いたい時にアプリが使えない

●今後への期待
・今まで見えなかった退院後の状況がわかることで、なぜ治療を中断したのか、なぜまた転倒したのか、なぜ寝たきりになったのかということがフィードバックされる。その対処法も考えることができ、多職種の質の向上にも繋がると思う
・患者の検査値や薬の状況などの情報がデータとして積み重なれば、データ集計が簡単になるかもしれない
・受診が滞っている患者が抱えているさまざまな問題や状況が、このアプリでリアルタイムにわかるようになっていくのでは、と期待する

 高齢者の数はこれからも増加する一方で、2025年には高齢化率が30%を越えると予測されている。高齢者が生き生きと暮らすためには、健康寿命を伸ばし、平均寿命と健康寿命の差を少しでも短縮することが欠かせない。寝たきりにさせないために、骨粗鬆症の予防や治療、二次骨折予防の重要性は増すばかりで、新潟リハビリテーション病院の先進的な取り組みは、大いに参考になるはずだ。
 全国にこの取り組みを広げるために必要なのは、リエゾンサービスや骨粗鬆症マネージャーの存在と、病診連携・多職種連携だろう。そこで活躍するのがICTツールではないだろうか。関わるスタッフから得られる患者の状態や日常の様子、医師の見立て、薬の処方や服薬状況などなどの必要な情報を一度に共有し、適切な措置をすぐに取れること、ツールを介して多職種のスタッフがいつも見守っていることは、患者にとってのメリットを増やすだけでなく、医療者(特に看護職)の負荷を減らすことにもなる。またこれらの情報やフィードバックを共有することが、全てのスタッフの知見を広げ、提供する医療の質の向上にも繋がることが期待される。先進の取り組みがICTツールの利用によって、より普及することを願ってやまない。

▲新潟リハビリテーション病院

取材・文/清水真保、撮影/櫻井英樹

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