コミュニケーションツールが支える医療介護者の連携

「受援力でつながる、災害支援の未来」〜KISA2隊 能登半島地震災害支援から見えた地域連携力〜

この記事のポイント

・能登半島地震におけるKISA2隊の活動
・災害支援の活動で得られた学びや課題
・『受援力』を身につけるために必要な日々の取組

KISA2隊の紹介

新型コロナウイルス感染症の第三波が全国に拡大していた2021年2月、京都府では入院調整中であった80歳代の女性が適切な医療を受けることができないまま、自宅で死亡するという痛ましい事案が発生しました 。これをきっかけに京都府京都市西京区に所在する「よしき往診クリニック」の守上佳樹医師が中心となり、COVID-19への訪問診療チーム「KISA2隊」が結成されました 。この記事では、KISA2隊メンバーの石田美穂氏が、能登半島地震におけるKISA2隊の震災対応時の役割と業務、直面した課題、そして今後の展望についてご紹介いたします 。

KISA2隊ホームページ: https://kisa2tai.or.jp/aboutus/

▲能登半島地震後のKISA2隊の災害支援活動の様子

震災対応時におけるKISA2隊としての役割と業務について教えてください。

私自身のバックグラウンドは元々Webマーケティングの仕事でした 。KISA2隊が組織として拡大していく中で、広報や企画、イベントのお手伝いをするボランティアとして参加したのが始まりです 。

今回の能登半島地震におけるKISA2隊の活動は、現場で活動していた支援チームからの「福祉施設のフォローアップや避難所の要介護者の把握が不足している」という情報の共有がきっかけでした 。KISA2隊にはコロナ禍でのクラスター支援を通じた熱い思いと行動力、そして多職種間での質の高い連携ノウハウがありました 。これを災害時にも活かせると確信し、穴水町での支援を決定しました。

チームの被災地派遣が決まっても、私自身は医療や介護の現場知識がなく、当初は右も左もわからない状態でした 。そのため、被災地に向かうメンバーが混乱しないよう、チームのシフト管理、物資調達、現地の状況把握といった「後方支援(バックロジスティクス)」に専念しました 。

また、チーム内には過去に熊本地震や人吉豪雨災害を経験し、既存の災害支援団体で活動を通じた知見を持つメンバーもおります 。こうした経験者のアドバイスを受けながら、私もロジスティクス担当として1月から実際に現地に入り、支援に携わりました 。

▲現地での活動内容と現状を共有

KISA2隊が災害支援に参加することにおいて苦労されたことはありますか。

KISA2隊にとって本格的な災害支援は初めての経験でしたので、多数の災害支援団体や保健所などとどのように連携し、調整役を担うかという点には非常に苦労しました 。

しかし、KISA2隊の最大の強みは、医療・介護・福祉といったフェーズの壁を感じることなく、多岐にわたる業務を柔軟に行える機動力です 。医師であってもおむつ交換や入浴介助を厭わないその姿勢は、他のチームにはない特長だと感じました 。

事前に想定していたことと、現地に行って違ったことはありましたか。

私たちが支援に入った穴水町では、早い段階からこうした多職種の連携がとれていたため、既存団体が早期に撤退した後も、スムーズに地域の医療体制へ戻すことができました 。現場をうまく回すためには、日頃からの連携体制が災害時にもそのまま活かされるのだと実感しました 。

震災から1ヶ月が経過した時点で現地に入ったメンバーからは、想像以上の「情報の空白」があったと報告を受けたのが印象的でした。避難所や在宅避難者の健康調査は専門チームによって行われていましたが、「どのようなケアが具体的に必要か」という福祉・ケアの視点からの評価が十分ではなく、地元のケアマネージャーや訪問看護ステーションとの情報共有も不足していたのです 。

そこでKISA2隊は、関係部署と調整し許可を得た上で、穴水町の居宅支援事業所や訪問看護ステーションを直接訪問し、個別の利用者様のニーズを掘り起こしました 。その結果、手配していた訪問入浴車を必要とする方々とマッチングさせることができ、具体的な支援に繋げることができました 。

能登は地理的な制約もあり、発災から1ヶ月経っても支援が行き届かない場所が多くあり、社会資源の乏しい地域における、在宅サービスへの組織的支援の難しさを痛感しました 。

▲KISA2隊 石田美穂氏                現地を訪れた際の現状と現場チームへの感謝を綴る▶  

KISA2隊のロジスティクス業務について教えていただけますか。

当初、本部のロジスティクス担当は私を含めてわずか4名でした 。被災地支援チームと違い、私たちは大阪や京都からリモートで指示やサポートを行う形をとりました 。

まずは「ロジとは何か」という定義から始まり、すべてが手探りでした 。災害発生時の活動ルールが未整備だったため、スケジュール調整ツールとExcelを突き合わせ、一人ひとりのスタッフに個別に連絡を取るというアナログな作業をリモートで行っていました 。毎日、朝昼晩に現地入りしているチームとオンラインミーティングを行い、刻一刻と変化する状況に合わせて必要な物資や人的サポートを判断し、送り出す日々でした 。

コロナ禍での緩やかな活動とは異なり、災害時は常に緊張感を持って試行錯誤しながら進めなければならず、ノウハウがない中での運営は非常に困難でした 。しかし、この「後方支援の後方支援」こそが、現場の活動を支える不可欠な存在であったと振り返っています 。

KISA2隊は以前から災害時の準備をされていたのでしょうか。また、現地に行くまでにどのような準備をしましたか。

以前から、コロナ禍での施設支援活動は災害時にも活かせるという確信があり、2023年12月に災害研修を実施した矢先の震災でした 。準備を開始したばかりでしたが、非常に早い段階で実践する形となりました 。

準備としては、DMATの装備品リストを参考に物資を購入し、スターリンクによるネット環境の確保、宿泊先の手配、他のメンバーと連携して緊急車両扱いにしてもらうための行政との調整、そして全国のKISA2隊のシフト管理を行いました 。 活動開始後には、現場の医師からの要望を受け、支援メンバーのメンタルケア体制も整えました 。また、初めて被災地に入るメンバーのために、30分程度のオンライン情報共有会議を定期的に開催し、不安の解消に努めました

▲2023年11月~12月に開催された災害についての研修会

現地の物資やボランティア等の状況、そして住民の反応はいかがでしたか。

物資自体は不足していなかったと思います 。しかし、必要な場所に必要な物を的確に届ける「ラストワンマイル」にボトルネックが生じていました 。支援者も同様で、人は足りていても、個別のニーズに十分対応しきれていない印象を受けました 。

そんな中、KISA2隊が入浴支援を行った際、1ヶ月ぶりにお風呂に入れた住民の方々の喜ぶ姿には、私たちも胸が熱くなりました 。今でも穴水町の方々から「あの時KISA2隊が来てくれて良かった」と感謝の言葉をいただきます 。現地の医師やケアマネージャー、介護士の方々がKISA2隊に入隊してくださったことも、私たちの活動を評価いただいた結果だと感じています 。 私たちは医療・介護の「共通言語」を持って会話したことで、地元の多職種の方々とすぐに打ち解け、細かな要望を拾い上げることができました 。メンバー一人ひとりの人柄も含め、質の高い支援ができたのではないかと感じています 。

▲現地の方からの感謝の言葉をMCSで共有

災害支援の中で、MCSはどのように使われたのでしょうか。また、実際に使ってみての感想を教えてください。

MCSではグループを作成し、シフト募集や活動状況のアナウンスを行いました 。特に有効だったのは、支援メンバー間で個人の状況を継続的に記録したことです 。前回のチームが残した記録に対し、次のチームが返信する形で追記していくことで、個別の支援内容の経緯を確実に把握できました 。
一方で課題も見えました。MCSは個人情報を安全に扱える反面、施設の許可や承認が必要なため、災害時にその場で登録して使うのは現実的ではありません 。また、情報共有グループが多すぎると、少し目を離した隙に未読が100件以上になり、情報の海に溺れてしまいます 。
情報過多を解消するためにAI要約機能のような便利な機能も必要ですが、何より平時からツールを使い慣れ、緊急時の活用ルールを決めておくことが重要だと痛感しました 。

▲KISA2隊大阪 隊長の小林正宜氏による現状の共有

活動を振り返って、うまくいったことや大変だったことは何ですか。

うまくいった事例として、地域の施設同士の連携を繋いだことが挙げられます 。断水で入浴できない老健の入居者様に対し、特養の送迎車を借りて入浴支援を行いました 。KISA2隊が橋渡し役となり、地元の施設職員と協力して支援を行う仕組みを作れたことは、今後の地域BCP(事業継続計画)を考える上でも大きな収穫でした 。
大変だったのは、やはり先ほど申し上げた情報の処理です 。通知に追われて必要な情報を見失うことは、支援・受援の両面に影響します 。日頃からのトレーニングこそが、最良の対策になると確信しました 。

『受援力』を高めるためのポイントと、行政や医師会へのお願いを教えてください。

外部からの支援を円滑に受け入れる「受援力」の向上には、日頃からMCS等のツールを使って情報共有を行う習慣を持つことが第一歩です 。また、災害時に外部の医師や看護師をすぐに受け入れられる体制を、平時から施設やステーション単位で考えておく必要があります 。

特に中山間地のように社会資源が乏しい地域では、介護サービスそのものが重要なインフラです 。災害時に何が不足し、どう対応するかを事前に協議する「連携型BCP」や「地域BCP」を構築していくことが、受援力を高める鍵となります 。

行政や医師会の皆様には、災害対策専用の枠組みをゼロから作るのではなく、既存の在宅医療や病診連携のプラットフォームに、災害対応の機能を醸成するような取り組みをお願いしたいです 。顔の見える関係性が希薄なままでは、いざという時に機能しません 。

全国各地でKISA2隊のような活動を行っていくには、何が大切でしょうか。

KISA2隊が初対面のメンバー同士でも円滑に連携できた最大の理由は、MCSを通じた日頃の連携にあります 。顔写真や投稿内容から人となりを把握できていたため、初対面でも共通の価値観を持って安心して活動できました 。

インフラがダウンするような極限状態でも、「あの人に電話をすれば助けてもらえる」と顔が浮かぶ存在がいることは、何よりも心強いものです 。そのような信頼関係こそが、受援力の源泉です 。勉強会などで顔を合わせ、つながりを築くことが受援力の第一歩になります 。KISA2隊の「顔の見える関係づくり」が全国に広がり、災害に強い社会が実現することを願っています 。

つながりこそが最大の備えになるということですね。そうした志を持つ方々が、実際に自分たちの地域で活動を形にしようとする際、KISA2隊として伴走したり、活動を後押ししたりするような仕組みはあるのでしょうか?

KISA2隊では現在、私たちの活動に共感し、それぞれの地域で社会課題の解決に向けた公益的な事業に挑戦したいと考えている団体をサポートする取り組みを行っています 。

災害時に機能する「受援力」や「顔の見える連携」を自らの地域で形にしたい。そんな熱い想いを持つ皆さまと共に、これからの地域医療・介護の未来を創っていきたいと考えています 。

私たちの活動ノウハウを共有し、共に歩んでいくための準備を整えていますので、少しでも関心をお持ちいただけましたら、こちらに情報を纏めていますので是非ご覧ください。皆さまの地域での新しい一歩を、私たちは心から応援しています 。

募集ページ:https://kisa2tai.or.jp/lp/kyumin2024/

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