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在宅医療スタートアップ企画(6)インタビュー編 田中公孝氏「ゼロからの挑戦」

第4回 これから始める医師へのアドバイス

▲田中公孝氏 (ぴあ訪問クリニック三鷹・院長)

2017年に東京・三鷹市で開業した医師の田中公孝氏(ぴあ訪問クリニック三鷹 院長)へのインタビュー。最終回では、在宅医療を志す医師に向けたアドバイスをお届けする。

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基本はトライ・アンド・エラー。失敗する「心構え」が必要

 伝えておきたいのは「必ず大変なことは起こる」ということ。ヒト・コト・モノ、全てにおいて何が起こるかわかりません。失敗しないようにしても失敗するので、それを見越して別の選択肢を準備しておくことが大切で、これは経営の基本でもあります。といっても、私も最初の1年間はプランAしか思いつかなかったので、なんとかプランBを捻り出せるように努力する。でも、その複数のプランを持ってしても失敗することもある。少なくともそういう「心構え」を持っておくことですね。大事なのは、失敗を学びに変えられるかどうかです。
 だから基本はトライ・アンド・エラーであり、最初に決めた通りに突き進まなければいけないわけではないんです。例えば医療品の卸業者にしても会社によっていろいろな特徴があるのですが、最初に取引していたところは大きな業者で、うちみたいな小規模のクリニックにはフィットしなかった。そこで、いくつかの業者と付き合った結果、最終的に1社を決めました。一方で、今利用している検査会社は特に慎重に選んだわけではないのですが、緊急検査に対応してくれるため、休日前の診療ではとても助かっています。これは最初の選定の成功例と言えるでしょう。こうして、あらゆることを判断して決めることの連続なので、開業から院長業務を続けていて「決断する力」がかなり養われました。

情報収集先として近年はネット上のコミュニティが充実

 開業や経営を学ぶにはノウハウ本も数多く出ていますし、インターネット上でもいろいろな情報を探すことができます。開業コンサルティング会社や開業支援をしている薬局などが主催するセミナーは内容が充実していますが、やはり高額な場合もあります。それに対して、私が知っている在宅医の先生のセミナーでは、数カ月のプログラムが組まれていて開業準備のことから訪問診療のやり方などのレクチャーが行われていました。また、ここ数年で充実してきているのはインターネット上のコミュニティで、開業コミュニティや在宅医療コミュニティなど、医師が発信する場がどんどん広がっている印象です。そういうコミュニティに参加すると、在宅だけではなく様々なタイプのクリニックの、耳鼻科や小児科など幅広い専門科の医師たちが勉強会をしていたりするので、手に入る情報の幅もぐんと広がっていきます。いくつかチェックしてみるといいでしょう。
 もう一つ、異業種との情報共有が課題解決のためにはすごく重要だと思っています。実際、私は介護関係者が集まるグループに参加していますが、それは介護業界の今の動きや施設ケアに関する情報などにキャッチアップしたいということだけが理由ではありません。今、介護業界には在宅医療以上に“革命児”というか、社会を変えていこうという気概のある人たちがたくさんいるので、その人たちからヒントをもらって自分の活動に生かしていきたいという意味で、ずっと関わり続けています。それから在宅医療の事務長の集まりにも参加していますが、そこでは医療というより経営に関わる人たちの考え方を知ることができ、とても勉強になります。そしてIT分野の関係者とも繋がりをキープしていて、ITと医療の可能性について考える機会を定期的に作るようにしています。

なるべく学会に参加して人脈を広げ、繋がる意識を

 社会情勢が目まぐるしく変わり、制度もしばしば変更される在宅医療においては、やはり情報勝負という側面があると思います。在宅医療に関するセミナーや勉強会などは都市部で開催されることが多いので、都市部の在宅医はある意味で恵まれていると言えます。地域によってはセミナー・勉強会に参加するのも大変なので、最近ではFacebook上のクローズドのコミュニティなどで情報交換をしている医療介護従事者も増えてきたように思います。もしかすると「はじめましてオンライン」もこれからは増えるかもしれませんが、本来はSNSで繋がるなら1回は実際に会って話をしてからの方がスムーズだと思います。そのためにも学会にはできるだけ積極的に参加して人脈を広げるといいですね。例えば日本在宅医療連合学会は参加するメンバーが人脈作りを意識している印象があり、演者の先生方とすぐに繋がれることも珍しくありません。在宅医療を実践している医療介護従事者というのは、もともと職種を超えてフラットに繋がるということに対する意識が高いと感じます。実際、悩んでいることをオンラインで聞いてみたら、すぐに「うちはこうしました」と反応があって、問題が解決することも。こうして医療介護従事者同士が繋がることはダイレクトに患者さんのメリットになり得ます。
 最後に、これからはますます地域の在宅医の先生方と連携して情報共有することも大切です。在宅医療のニーズが増えていくこれからの時代は、できれば「ギブ・アンド・ギブ」の精神で連携したい。「テイク」を意識する医療の関わり方では限界があるので、自分のところがうまく回っているなら、お手伝いできるところはお手伝いした方がいいです。その方が、きっとやりがいもあると思いますし、地域のためにもなるはずです。

取材・文/金田亜喜子

(了)

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