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在宅医療スタートアップ企画(7)インタビュー編 小林正宜氏「在宅医療立ち上げの挑戦」

第1回 医院継承後に立ち上げた在宅医療、そもそものきっかけは

▲小林正宜氏(葛西医院・院長)

在宅医療を目指す医師をサポートするための本連載、インタビュー編の2人目は小林正宜氏(大阪市生野区 葛西医院 院長)。祖父が開業した医院を3代目として引き継いだが、在宅医療を始めたのは氏の代になってから。医院継承後の在宅医療立ち上げケースについて、4回にわたって紹介しよう。

小林正宜(医師)/葛西医院 院長
医学博士、日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療指導医・専門医。日本内科学会 総合内科専門医、病院総合診療認定医、日本医師会認定産業医。大学病院勤務等を経て2018年に祖父から続く葛西医院を継承。地域医療・訪問診療に力を尽くすだけでなく、研修医も積極的に受け入れている。また、医療介護職の連携を深めていくための勉強会「おかえり」ネットワークも主催。

祖母を自宅で看取ったことが在宅医療を立ち上げるきっかけに

 開業67年を迎えた葛西医院を継承したのは2018年7月のことですが、在宅医療は先代から引き継いだのではなく、3代目の僕になってから始めました。僕は専門が総合診療なので、家庭医療専門医を取得する過程で在宅医療についても学んでいましたが、実際に取り組みたいと思ったきっかけはいくつかあります。
 一つ目は、大学時代に在宅ケアの分野で有名な先生の実習に参加したことが原体験になっています。病院で最期を迎えるのが当たり前というイメージを持っていたのですが、自宅で看取るという選択肢もあることを知り、その良さを実感したんです。同時に大変さやハードルの高さがあることも知りました。
 もう一つの大きなきっかけが、私が医者になって5年目の頃、入退院を繰り返していた祖母を医院の隣にあった自宅で診るようになったことです。在宅医療のことは分からなかったのですが、医院の物品や薬を使いながら治療と世話をするというような形をとり、何カ月か過ごした後、自宅で看取ることができました。それが僕にとってすごく良い経験になりました。
 患者さんの疾患や状況によっては自宅の方が辛いこともあるので、100%在宅での看取りがいいとは思いません。ただ病院では医療従事者に気を遣うこともありますし、住み慣れた環境で過ごすことは、患者さんの心の安定にも繋がると思います。僕自身も、できれば最期は自宅で迎えたいと思っているので、そう願う患者さんの希望はできるだけ叶えてあげたいと考えるようになりました。
 また、在宅医療をはじめた理由には、地域に貢献したいという思いもありました。大学を卒業し、地元の大阪で研修を開始してすぐの時期に、父が脳出血で倒れてしまいました。父は休診を経て復帰できたのですが、倒れた直後に研修先の教授に相談したところ、教授をはじめとする総合診療科の先生方が父の代わりに日替わりで診療に入ってくださいました。僕も診察に立ち会い、約2カ月必死に地域医療に携わったことで、いつか必ず地域の役に立ちたいという決意が生まれました。

実際の現場を数多く見学することで自分のやりたいことが見えてきた

 在宅医療を立ち上げたいという意欲はあったものの、家庭医療専門医の資格を取得する過程で少し勉強したくらいで、実際にはあまり実践的な知識がない状態でした。継承前から在宅医療に関する勉強会には参加していましたが、やはり現場を見てみないと実情はわかりません。医局を辞めて院長としてスタートするまで、幸いなことに3カ月ほど余裕があったので、その間にできるだけ多くの場所に見学に行きました。もともと面識のある先生、以前から興味を寄せていた先生のところに見学をお願いして、在宅医療に携わっている医師はもちろん、ケアマネジャーさんやヘルパーさんのところにも見学に行きました。トータルで20カ所以上は見学したと思います。
 見学先はその気になればいくらでも見つけられますが、その助けになったのが勉強会です。在宅医療や総合診療分野の勉強会に参加した時に、多くの開業医や総合病院の先生と面識ができました。そこで出会った憧れの先生や在宅医療でご高名な先生にコンタクトを取って積極的に見学をお願いしたんです。私が尊敬している諏訪中央病院の山中克郎先生(現福島県立医科大学会津医療センター総合内科学講座教授)のところにも伺いました。山中先生からは諏訪中央病院の名誉院長で地域医療、地域包括ケアのパイオニアである鎌田實先生をご紹介頂き、鎌田先生のお話を聞いたり、一緒に在宅診療に回らせて頂いたりしたことも貴重な経験でした。
 こうして地元の大阪だけでなく、東京、広島、三重、奈良など全国各地を訪ねて在宅医療のことを学んでいくうちに、自分が目指す在宅医療が見えてきて、それまでぼんやりしたイメージだったものが、形のあるものになりました。患者さんの生活にしっかり入り、ゆっくり時間をかけて話し、治療や予防に取り組むこと。それが、僕が在宅医療でやりたいことでした。経営のことを考えると、専門の施設を構えてたくさんの患者さんを回る方がプラスになるのですが、それは僕の望むスタイルではないということもわかりました。こういったビジョンが見えてきたところで継承の7月を迎え、在宅医療をスタートすることになったのです。

取材・文/清水真保

(第2回に続く)

>>在宅医療スタートアップ企画 (1) アンケートから見える課題と解決策<前編>はこちら

>>在宅医療スタートアップ企画(2)アンケートから見える課題と解決策<後編>はこちら

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