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在宅医療スタートアップ企画(8)インタビュー編 小林正宜氏「在宅医療立ち上げの挑戦」

第2回 医院(外来)が母体にある場合、在宅医療立ち上げ時のコストは低い

▲小林正宜氏(葛西医院・院長)

現場を数多く見ることで、自分の目指す在宅医療の形が見えてきた小林正宜氏(葛西医院院長)へのインタビュー。第2回は、在宅医療立ち上げにあたって準備したことを紹介する。

>> 第1回はこちら

物品、人材などの追加投資は初めから気負わなくても大丈夫

 診療所(外来)が母体にあったので、在宅医療を始めるにあたっての追加コストは、比較的かかりませんでした。医療機材など必要な物品の準備や、スタッフの採用・教育でも、苦労したことはなかったと思います。患者宅への訪問は、最初は僕1人が自転車で行っていたので、スタッフを新たに雇用する必要もなく、新しく買ったのは往診用のトートバッグくらいですかね。しばらくして軽自動車は購入しましたけれど。
 というのも、在宅医療は医師が訪問して診察・処置をし、処方箋を書きますが、それ以外は他施設の訪問看護師さん、薬剤師さん、ケアマネジャーさん、ヘルパーさん、デイサービスや福祉用具の担当者の方などがサポートしてくれます。医院側の投資よりも、多職種のスタッフと連携し、協力し合える体制をつくることが重要だと思います。

多職種連携が取れていれば、急な呼び出しは減らすことができる

 外来をやっている先生が在宅医療を始めようと思っても、外来診察中や夜間に在宅の患者さんから呼び出しがあったら対応できるかが心配ですよね。でも僕の経験からいうと、ほとんどは大丈夫なんです。在宅を始めて1年数カ月、その間、お看取りも35名くらいしていますし、今も居宅の患者さんを約70名見ていますが、外来診察中に呼ばれて困ったことはほとんどありません。
 これは多職種連携がなせる技なんですね。僕たち医師が1人の患者さんを訪問するのは平均月2回ですが、訪問看護師さん、ケアマネジャーさん、ヘルパーさんなどを合わせるとはるかに訪問頻度が多い。ですから患者さんの状態の変化を素早くキャッチしてケアに関わる多職種で情報共有します。僕からも報告は頻繁にしてほしいとお願いしています。この報告をチェックしていれば「これは早めに介入した方がいいな」というのが分かるんです。早く介入した方がいいと判断すれば、日中のうちに問題を解決しておくことができ、夜間や外来診療中に呼ばれることは滅多にありません。
 そろそろお看取りが近い患者さんがいる時は、飲酒を控えるようにしています。実はそれまで当直の日以外は毎日飲むくらいお酒が好きだったのですが、訪問診療を始めるにあたって最初は堅く考えていて、飲まないと決心していたんですね。でも大阪の在宅の先生の見学に行ったときに、「そんなんやったら続かへんよ、飲めるときは飲んだらええやん」って言われて、そこからはあまり考えすぎないようになりました。ストレスが高じて、日々の診療の質を落とすようなことになったら本末転倒ですし。それはさておき、地域の多職種ときちんと連携していれば、緊急な呼び出しを心配しすぎることはないと思います。

外来診療と在宅医療の両輪で診察の質向上に寄与

 個人的には外来診療をしている先生には、在宅医療にもぜひ取り組んでいただきたいと思っています。通院が困難になった患者さんも、これまで診てくれていた先生が、続けて家に来て診てくれるのはありがたいことだと思います。一方、医師にとっても有益なことが多々あります。患者さんも自宅だとリラックスされるのか、医院では出てこなかった話をたくさんしてくれるんです。同じ30分でも、外来で得られる情報量と全然違うこともありますね。また、いつもと違って家の中が散らかっている様子を見たら、もしかして調子が悪いのかな、と患者さんに聞くこともできます。家の環境や家族関係など、外来だけで見えないことを知ることが、結果的に診察の質を上げることに繋がると思います。

取材・文/清水真保

(第3回に続く)

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