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在宅医療スタートアップ企画(2)アンケートから見える課題と解決策<後編>

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在宅医療スタートアップ企画(1)アンケートから見える課題と解決策<前編>

在宅医療を目指す医師のサポートを目的に本連載を企画したメディカルケアポストでは、2020年3月にMCSユーザーのうち「在宅医療立ち上げ経験のある医師」「在宅医療の立ち上げに興味のある医師」を対象としたアンケートを実施した。前編ではデータを元にアンケート結果の概要を伝えたが、後編では在宅医療立ち上げ経験のある医師からの自由回答を中心に、在宅医療現場のリアルに迫るとともに、在宅医療立ち上げにあたってのアドバイスも紹介していきたい。

立ち上げ前の準備として資格取得は必要?

在宅医療を立ち上げた経験のある医師たちの専門領域(立ち上げ前)は総合内科が最も多い。また、立ち上げのために取得した資格については、総合内科専門医、次いで在宅医療専門医という結果だった。その他として、ケアマネジャー、プライマリケア学会認定医などを取得している医師もいた。

▲「在宅医療立ち上げ経験のある医師」の立ち上げ前の専門領域
▲「在宅医療立ち上げ経験のある医師」の立ち上げ時に取得した資格

立ち上げ時の最大の課題は「人材」

「立ち上げる際に大変だったこと」の回答で最多かったのは人材面で、例えば「経験豊富なスタッフと、新たに管理者となったスタッフとの間の関係構築」「看護師の応募がなく事務職のみで開業した」「古いスタッフの抵抗、医療の考え方の浸透」などが挙げられている。ただ、続けるうちに良い循環が生まれる例もあり「しばらくは一人で訪問せざるを得なかったが、同行できる看護師が入ったことで診療時間が短縮でき、収入が増えて常勤看護師を雇うことができた」との声が聞かれた。

外来診療も実施している医師の場合、「基本的に一人開業なので、不在になった時に受診した患者への対応」「一般診療との時間の調整」など在宅と外来の両立もネックになっている。また「一人で始めたので24時間365日対応が大変だった」「訪問時間が夜9時ごろになることもあった」などの労働環境面、「どこに挨拶に行けばよいか迷った」「事業所などとの連携」「紹介してくれる医療機関や行政がおらず患者がいなかった」などの連携面で苦労も見られる。

こうした壁にぶつかったときには「先端的な在宅医療を行っている診療所を見学した」「勤務医時代の人間関係に頼った」「在宅医療を行っている友人との情報交換」など同業者への相談や見学のほか、訪問時間の設定やスタッフの配置を変える、積極的に広報活動をして患者を増やすなどの工夫で乗り切ったようだ。立ち上げ時は人材や患者が集まらないという事態をある程度想定しておくと、焦らず対応できるかもしれない。

少数ながら、苦労はなかったいう医師もいたのでコメントを紹介しておこう。「子供の頃から見ていたごく普通の医療行為なので大変なことはなかった」「入院患者とあまり変わりはなかった」「若かったので苦労はなかった」。

(画像はイメージです)

在宅医療を始めてからの課題とやりがい

スタート時の難題をクリアして在宅医療が軌道に乗ったからといって、問題が全て解決するわけではない。現場の苦労として多く挙げられたのはスタッフ・マネジメントと並んで「医師会とのつながり(に苦労した)」「急変の際の急性期病院の受け入れ」といった地域との連携だ。解決策としてはホームページの開設や講演活動などで周辺の理解を求める、休日や夜間の対応が難しい場合は他の在宅医との連携を図る、などが挙げられていた。医師数が少ない地方の医師からは「医師会役員、産業医、校医など複数の役割を任されてしまい、これを調整するのが大変」というコメントもあり、地域特有の課題として注目される。また「訪問看護師、院内関連スタッフとの連携が、カルテ、LINE、ファクス、メーリングリストと多岐にわたり煩雑」という声もあったが、こうした課題についてはぜひMCSをはじめICTツールを活用してほしいところだ。

今回のアンケートに回答してくれた在宅医の多くは10年以上続けていることから、さまざまな苦労があってもなお在宅医療を続けたいと思えるだけの「やりがい」を感じているということだろう。「末期がんの患者さんに最期まで自宅でお過ごしいただけた、という達成感に尽きる」「患者さんの生き方、死に方、人生を共に歩む」などのコメントから分かるように、患者・家族としっかり向き合えることをやりがいと感じている医師が多かった一方で、悩みのタネとなりがちな「多職種連携」や「医師会での役職」をやりがいと感じている医師もいる。また「誰もやっていない、血液内科の訪問診療を始めた。年間1000件の在宅輸血を行なっている」と、自身の専門性を生かすことでやりがいある在宅医療を実践している例もあった。

(画像はイメージです)

これから在宅医療を始めようとする医師たちへ

立ち上げ前にあれこれ想定していても、実際に始めてみるとなかなか想定通りにはいかないものだ。在宅医療を始めてから感じたギャップについては、以下に挙げるようにプラス・マイナス両面の回答があった。

(−)想像以上に忙しい

(−)介護者への対応に苦慮している

(−)周囲(医療関係者、市民)の在宅医療への認識や理解が低い

(+)(−)患者数は増えたが、一人対応の限界を感じる

(+)思ったほど夜間・休日に呼ばれることが少ない

(+)数年前の診療報酬改定で予想より売り上げが上がりモチベーションもアップ

(+)在宅医療を理解してくれるスタッフが増えてきた

最後に、在宅医療立ち上げの経験者たちからの、これから立ち上げようと考えている医師たちへのメッセージやアドバイスをいくつか紹介して、本稿を締め括りたい。

  • 「若いうちに思い切って飛び込む勇気が必要です」
  • 「経営は簡単ではない。患者さんに対する熱い気持ちが必要です」
  • 「在宅診療があまり普及していないところでは、人脈つくりに時間がかかります」
  • 「宅診ばかりよりも、訪問でドライブしながら周りの景色を観て季節感などを肌で感じながら仕事ができるって楽しいなあと思いながら仕事をしています」
  • 「クリニックのランニングコストは重くのしかかる。新規立ち上げに拘りすぎず、寄らば大樹の陰。もちろん、寄りかかる大樹の種類はきちんと見極めるという言葉の意味通りです」
  • 「生活や生き方、地域を診る幅広い視野も磨いて下さい」
  • 「1例でもいいので、往診を始めていくと、徐々にわかってきます。他地域の在宅医と積極的に交流などをしたほうがいい」
  • 「まずは一人からでも始めること」
  • 「相談できる友人を持つこと」
  • 「信念があれば出来る」
(画像はイメージです)

ここまで前編・後編にわたってアンケート結果を紹介してきたが、次回からは実際に在宅医療を立ち上げ、実践している2人の医師へのインタビュー記事をお届けする。一人はゼロからスタートした東京・三鷹の田中公孝医師(ぴあ訪問クリニック三鷹)、もう一人は先代からの継承でスタートした大阪・生野の小林正宜医師(葛西医院)。在宅医療への思い、そしてこれから在宅医療を担う医師たちへのメッセージなど、それぞれの立場から幅広く聞いたストーリーを8回にわたって公開する予定だ。

文/金田亜喜子


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