コミュニケーションツールが支える医療介護者の連携

都市型在宅医療におけるACPとICTツール活用(東京・三鷹市)後編

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▲ぴあ訪問クリニック三鷹のスタッフ。上段左から田中公孝氏(医師・院長)、山本燈氏(相談員)、下段左から和久津美由紀氏(医療事務)、水野愛氏(看護師)

大型連休中も切れ目のない連携で看取り期を見守る

 2019年4月末から5月にかけての10連休が記憶に新しいが、在宅医療においては、大型連休や年末年始などの長期休暇中の対応もひとつの課題だ。ぴあ訪問クリニック三鷹では10連休中に看取りを迎えたケースがあったが、MCSで通常通り多職種とのコミュニケーションが取れていたため、特に混乱は生じなかったという。また、連休中の情報が事細かにタイムラインにアップされることで、院内においても休み明けにスタッフ間の申し送り事項が減り、短い時間で次の段階の話ができるというメリットもあった。
 この10連休中に看取ったケースでは、休みに入る直前に田中氏が訪問し、連休中に看取りになる可能性も視野に家族と長めに面談、最終的な意思確認を行なった。数日後、「呼吸が苦しそう」と連絡が入ったため、翌日に訪れた訪看から経過報告を受けた。タイムラインでそのやりとりを見ていた薬剤師も、その後患者の様子を気にして訪問している。田中氏はそうした報告を受け、その都度対応指示を出していたので、実際に訪問したのは呼吸停止の連絡を受けた最期のみだったが、これまでの一連のアクションがあったため、家族も納得してくれたという。「MCSの多職種連携で直前の看取り期を追うことができたのです。以前は症状が出る度に私が訪問して確認する必要がありましたが、だんだんその役目を多職種が担ってくれるようになってきました」と田中氏。こうした連携が医師の負担減だけでなく、多職種それぞれが自らの仕事に主体的に取り組むことにも繋がり、より医療の質が上がると考えられる。
 比較的長い休暇の間も切れ目のない連携が可能になるのは、多職種の誰かが訪問しているからでもある。特に訪問看護は交代で訪問し、患者の様子を気にした薬剤師やケアマネが臨時で訪問するケースも少なくない。緊急事態だけでなく、訪問するたびに多職種から「元気でした」「特に問題ありませんでした」という連絡が入るのはMCSあってこそだが、これは医師としても安心だ。「今回の10連休に限らず年末年始も同じですが、合間に患者宅に入る多職種のおかげで連休中のブラックボックスがなくなりました。電話をするほどではない些細な情報をアップしてくれるのが大きい。“知らせがないのはいい知らせ”とは限らないですから」(田中氏)。

▲10連休中に看取りとなった患者のタイムラインより。担当の訪問看護師だけでなく、様子を気にして訪れた薬剤師からも詳細な報告が上がっている

ICT化の流れは加速。都市型在宅医療のモデルとしての今後に期待

 ぴあ訪問クリニック三鷹では、2018年から在宅での腹膜透析患者の受け入れもスタートした。日本では腹膜透析自体の普及が進んでいないこともあり、まだ受け入れ事例はないが、今後、啓発活動が進み、病院と在宅医が連携して通院困難な患者も負担なく在宅腹膜透析治療ができれば社会的意義があると考えて導入したという。「血液透析は最後まで闘うスタンスの治療で、患者さんには辛いこともままありますが、腹膜透析は緩和の手段になり得ます。まだまだ腎不全患者の緩和ケアという発想は広まっていませんが、これからは慢性腎不全の患者さんにも“頑張って生き切る”以外の選択肢を提示すべき世の中になっていくのではないでしょうか」(田中氏)。

※関連記事「ICT多職種連携が腹膜透析をよりユビキタスな医療へ(鹿児島県・加治木温泉病院)」

 腹膜透析治療の遠隔コントロールは言うに及ばず、これからの在宅医療にICT ツールは絶対に欠かせない、と田中氏は強調する。効率化することで現場に余裕が生まれ、より患者の生活に目が行き届く。ここでクリニックのスタッフの声を紹介しよう。

  • 「MCSは操作が簡単で助かっています。採血の結果などを電子カルテからそのままコピーしてアップできるのがいいですね。主にクリニックと他の事業所との繋ぎ役をやっていますが、細かいニュアンスを伝えたい場合などは電話、通常の連絡はMCSと使い分けています」(相談員・山本燈氏)
▲ぴあ訪問クリニック三鷹 相談員の山本燈氏
  • 「MCSの書き込みを見て点滴物品や生理食塩水といった物品のコストを算定しています。といっても大量の書き込みを全部見るわけではなく、基本的な物品の使用状況は先生から聞いているので、それ以外の使用状況をチェックしています。訪看さんに毎回聞くのは気が引けますから、とても便利だと思います」(医療事務・和久津美由紀氏)
▲ぴあ訪問クリニック三鷹 医療事務の和久津美由紀氏
  • 「訪問前にMCSをチェックするというのが業務の一連の流れとして定着しています。たとえば褥瘡の処置が必要な場合、訪看さんが事前に患部の写真を送ってくれます。あらかじめ準備をしてから訪問できるので、MCSがなかった時と比べると訪問時の処置時間が半分くらいになり、患者さんやご家族と雑談する余裕ができました。雑談は生活が見える大切な時間です」(看護師・水野愛氏)
▲ぴあ訪問クリニック三鷹 看護師の水野愛氏

 このように、ぴあ訪問クリニック三鷹では、MCSを活用した効率的な連携を推進しているが、ここ数年で在宅医療においてはかなりICTの普及が進んできたというのが田中氏の印象だ。端末の普及や通信環境の整備もあるが、「MCSのようなツールの便利さを実感した在宅医たちが良い事例を発信しはじめたことも、この流れを加速させているのではないでしょうか」(田中氏)。

 東京・三鷹で開業したことについて「24時間365日対応するにあたって、その街を好きでないとモチベーションが続かないと思ったから」と田中氏。先輩医師らにリサーチして地域特性はある程度把握してのことだった。前述のように連携先が多く、ケアチームのメンバーが固定しないなど都市特有の複雑さは否めない。また、比較的富裕層に属する患者も多く、ともすればケア方針について家族に“お伺いを立てる”など、患者・家族と信頼関係を結ぶための工夫が求められることも多い。「でも、それが私のこの地域でのポジションだと思っていますし、だからこそやりがいを感じます。患者さんの生活を見て学ぶということではベストなロケーションです」と田中氏は笑う。ぴあ訪問クリニックがこれからも都市型の在宅医療の事例を重ね、そこから多くを発信してくれることに期待したい。

取材・文/金田亜喜子、撮影/谷本結利

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