コミュニケーションツールが支える医療介護者の連携

都市型在宅医療におけるACPとICTツール活用(東京・三鷹市)中編

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都市型在宅医療におけるACPとICTツール活用(東京・三鷹市)後編

▲ぴあ訪問クリニック三鷹 院長の田中公孝氏

ACPなどデリケートな局面では対面・電話も必要不可欠

 MCSを便利に活用する一方、田中氏はICTツールの弱点も感じており、同じ方向を向いて多職種連携をするためには電話や対面によるコミュニケーションも絶対に必要だと強調する。そのことを痛感したというケースを紹介しよう。80代男性・肝硬変末期患者のAさん。キーパーソンである長女は遠方に在住しており、普段は高齢で初期認知症の妻との2人暮らしという典型的な老老介護だ。市内の病院から退院時に紹介され、腹水が溜まりやすい、肝性脳症が発症しやすいなど頻繁に緊急対応が発生するケースのため、長女にMCSを紹介したところ、本人のアカウントを取得して参加してくれた。多職種の参加も訪看、ケアマネ、ヘルパー、介護福祉士(24時間訪問介護)、薬局など“フルメンバー”だ。多職種はそれぞれ訪問時の様子をこまめに書き込み、長女も患者の様子や自身の不安な気持ちまで細かに書き込むなど、医療・介護側、患者側ともにタイムラインを“フル活用”。これだけの体制を整えてもなお、MCSだけではすれ違いが生じてしまったという。最大の原因は「文字ではニュアンスが伝わらない」こと。その時の具体的な経緯を田中氏は振り返る。
 「発端は、介護さんから『Aさんが先生にちゃんと診てもらっていないとおっしゃっていますが』と報告があったこと。『これは行き違いになっているな』と感じ、すぐに多職種で集まってカンファレンスをすることにしました」。実は、このケースでは終末期について、患者本人と家族との意志に微妙なズレがあった。田中氏と家族の間では「治療の手立てがないので緩和ケアを行い、最期は自宅で」とのコンセンサスが取れていたのだが、多職種の中でも家族とのコミュニケーションが少ないメンバーが、何か他に治療はないかと思う患者の言葉をそのまま受け取ってしまったことが、行き違いの原因だった。「顔を合わせて話をすることで、ようやく医療・介護側の目線が揃いました」。そこからは通常のMCSのやりとりと対面・電話の併用によって連携がスムーズになり、家族からも感謝されての在宅看取りに繋がったという。

▲Aさんの長女のコメント。具体的な書き込みにより、患者だけでなく家族の様子も伝わってくる
▲Aさんの看取り期の書き込み。患者の状態と投薬に関する詳細などが逐一多職種と共有された

 Aさんのケースを乗り越えたからといって、その他のケースも同じようにスムーズに流れるとは限らない。このことは、ある意味で都市型在宅医療の特徴かもしれない。というのも、連携先が多く存在するため、患者ごとに違うメンバーによるチームが組まれ、その都度、多職種全員の目線・立ち位置を揃え、認識を共有していく必要があるからだ。特にACPにおいては微妙なニュアンスの伝達が重要なため、大切な局面では多職種や患者家族との電話や対面によるコミュニケーションは欠かせない。田中氏の経験した行き違いの最たる例は、在宅看取りを希望していた患者にもかかわらず、訪看が救急車を呼んだケース。「ACPのプロセスは組む多職種のメンバーによって変わってきます。Aさんの事例もそうでしたが、ACPでは患者さんとご家族だけでなく、多職種の思いも無視できません。お看取りの直前に頻回に関わるケアチームともコンセンサスをとる必要があると考えています。なぜなら、患者さんの呼吸が止まっているのを見つけるのは多職種かもしれないからです。ご家族が遠方のケースでは特にそうです」(田中氏)。毎日のように患者に接するヘルパーや訪看が、遠方の家族以上に“家族的な”気持ちになってしまったり、困惑してしまったりするのは致し方ないだろう。一方で終末期というのは、専門的な医療知識や経験がないと判断できない局面であるというのも事実だ。そのため患者、家族、多職種には正解がわからず、各々が自分の立場から主張しがちであることも、事態を複雑にしているのかもしれない。

▲田中氏は患者・家族に最期の時の説明をするにあたりパンフレットを使用、そのページの画像をMCSにアップして多職種と共有する。ACPにおいて多職種の目線を揃えるための工夫のひとつだ

<【後編】につづく。>

取材・文/金田亜喜子、撮影/谷本結利

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