コミュニケーションツールが支える医療介護者の連携

在宅医療スタートアップ企画(3)インタビュー編 田中公孝氏「ゼロからの挑戦」第1回 在宅医療クリニック開業のきっかけ

在宅医療を目指す医師のサポートを目的にスタートした本連載、今回からはインタビュー編として、在宅医療クリニックを立ち上げた医師のリアルな声をお届けしたい。一人目として、在宅医療クリニックの新規立ち上げの際の課題や解決策などについて、ゼロからスタートした田中公孝氏(ぴあ訪問クリニック三鷹 院長)のスタートアップストーリーを4回にわたり紹介する。

■PROFILE 
田中公孝(医師)/ぴあ訪問クリニック三鷹 院長
日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医。2017年に訪問診療に特化したクリニックを開業。クリニックの名称「ぴあ=peer」は「同等、仲間」の意で、介護事業所、医療機関、地域・行政のメンバーと、患者・家族のためにフラットな立場で支え合う関係性を目指す同院の信条を表現。

きっかけは研修医時代の経験。やりたい医療を目指して開業

 在宅医療に関心を持ったのは、研修医時代の経験からです。当時、担当していた病棟で、胃ろうや繰り返す肺炎によってなかなか退院できない高齢の患者さんがあまりに多く、病院だけが頑張っても状況は変わらないと思ったので。その後、家庭医療専門医を取得し、勤務医として在宅医療に関わっていましたが、患者さんがより自分らしく自宅で最期を迎えられる環境を作ることや、ITを活用して効率性を高めるといったことをやってみたいという思いが募っていくなかで、既存の環境に限界を感じ始めました。
 というのも、医療機関というのは数十年という歴史のあるところも多く、それまでの法人の流れや長年にわたり築き上げてきたやり方があるので、新しいことを始めようと働きかけてもなかなか変革をもたらすのは難しい。しかし、最近は世の中の地域包括ケアへの取り組みや高齢化、IT化の流れがあまりにも速く、1-2年で情勢は目まぐるしく変わります。そこで考え抜いた末、開業という方向に舵を切りました。また、IT・医療ベンチャーの世界で活躍する同世代の人たちの姿を見ていて刺激を受けたというのもあります。20代、30代でもこれだけ理念の実現ができるなら自分にもできるかもしれないと背中を押された。これが、実際に開業する1年ほど前のことです。

勤務医を続けながら開業準備。信頼できるコンサルタントに相談

 何が大変だったかというと、まず思った以上に考えなければならないことが多いということ。揃えるべき医療機器や物品など診療に関することなら、在宅医療を少し経験すればある程度はイメージできますが、実際には医療以外のことでやるべきことが膨大にあります。不動産を選定する、保健所に届出をする、車や家具・家電を揃えるなどをしなければなりません。どんどんリスト化していったら「こんなにやらなきゃいけないんだ」と、ちょっとたじろぎました(笑)。どれも普段病院に勤務していたらわからない、これまでの思考回路になかったことばかりで、しかも当時は勤務医を続けていたため、日常の診療をやりながら、残りの時間をそうした準備に費やしたわけです。
 いまはインターネットで様々な情報を入手することができる時代ではありますが、こうした、開業のために何が必要か、どういう壁を突破しなければならないか、という情報は意外と表に出てこないのが実情。私は開業パートナーの人脈をたどり信頼できるコンサルタントに相談できたのがよかったです。同様のコンサルタントはたくさんいますが、本当に信頼できるコンサルタントかどうか見極める必要があります。そうしないと、勧められるままに高額な設備や医療機器を購入したけど結局はほとんど使わない、なんていうことになりかねません。また、実績のある在宅医療クリニックを見学することはとても役立ちますが、情報過多で悩むこともあります。私は2件見学しましたが、見学先で見るもの、聞くこと、吸収することがあまりにも多くて消化不良になってしまいました。もともと最初からミニマムスタートを意識していたのですが、そうした規模のクリニックと、私が見学したような大きなクリニックでは、やり方が違うということを当時は理解していなかったのです。

 ここ三鷹で開業したのは、先輩医師も多く在住しており、医療界、政財界、文化界などいろいろな分野で成功を収めた方が多く住んでいて、自分の人生の勉強になる機会をたくさんもらえると確信したからです。また、東京なのに緑が多くて住みやすいのも魅力でしたし、地域柄も素晴らしい。開業マーケティングの視点から見ても、都心へのアクセスがいい割に23区内に比べてまだ競争が激しくなっていなかったこともあります。さらに、24時間365日対応という観点からも自分のモチベーションを維持できるかどうかを踏まえて診療エリアを決めようと思っていました。自分にとって、学びのあることが日々の活力になるので、実際、三鷹市で在宅医療を介してそうした方々やご家族と接する機会を持つことは、私自身、多くの学びを得ていると感じています。

取材・文/金田亜喜子

(第2回に続く)

>>在宅医療スタートアップ企画(1)アンケートから見える課題と解決策<前編>はこちら

>>在宅医療スタートアップ企画(2)アンケートから見える課題と解決策<後編>はこちら

keyboard_arrow_up

非公開型 医療介護連携SNS