コミュニケーションツールが支える医療介護者の連携

ICT活用で変わる「退院カンファレンス」と「退院後フォロー」(群馬・館林市)

 患者が病院での入院加療を終え、自宅等での療養を希望する際、病院の主治医と在宅療養を担当する医師らとの間で患者の病態や状況について情報を共有する「退院カンファレンス」。一般的には退院前に病院で行われ、病院の医師、病棟の看護師などの院内スタッフと、地域のかかりつけ医、訪問看護師、ケアマネジャー(以下ケアマネ)など地域の関係者が参加する。この退院カンファレンスにおける多職種連携にMCS(メディカルケアステーション)を活用し、その質的向上をはかっているのが群馬県館林市の館林記念病院だ。看護部長の世鳥山恵美子氏に話を聞いた。

▲館林記念病院 看護部長 世鳥山恵美子氏

わずか30分の退院カンファレンス。情報共有に課題があった

「退院カンファレンスは退院がほぼ決まったときと、退院直前に1、2回行われるのが通例です。患者家族を中心に、医師、看護師、介護福祉士、理学療法士、作業療法士、ケースによっては言語聴覚士、薬剤師、管理栄養士、ケアマネジャー、ソーシャルワーカーなどが集まりますが、ミーティングは長くても30分程度。重要な情報をその場で聞き忘れることもあり、後から問い合わせが入ることもよくあります」と、館林記念病院の世鳥山恵美子看護部長は語る。

 以前から退院カンファレンスでの情報共有が不十分であることを課題に感じていた。

「これでは自宅や療養施設に戻っても、患者が困るのではないか。医療・介護に関わる多職種が連携して、退院後の患者のフォローをよりスムーズにできないかと考えていました」

 そんな折り、2015年、館林医師会が開催した多職種連携におけるICT活用の研修会でMCSを知り、その場でアプリをダウンロードしてアカウントを登録した。「退院カンファレンスに使える」と感じた。SNSで友人と交流したことはあるが、必ずしもIT活用に熱心というわけではなかった。それでも、マニュアルなしでもすぐに使えるようになった。まもなく世鳥山氏が率先する形で、館林記念病院は院内での情報共有や、退院カンファレンスにおける多職種連携などで、MCSを活用し始めた。

「アカウント登録したあとすぐ、院内で独自に説明会を行いました。最初は『使ってみよう』と思ってくれた数名から始まりました。まず作成したのは、『〇〇病棟』『△△病棟』という病棟ごとのグループです。そのグループに看護師だけではなく多職種に入ってもらい、入院患者さんの情報共有から始めました。

 入院時に患者やご家族にMCSを紹介し、利用を了承いただいた患者に印をつけ、病院のスタッフがわかるように準備しました。考えてみれば、初めから病院中を巻き込んでいますね(笑)。その後、館林邑楽郡医師会でMCS普及プロジェクトが組まれ、多くのスタッフと共に、各施設やケアマネが参加して、現在に至っています」と、世鳥山氏は振り返る。

 館林記念病院は、一般病棟(34床)、回復期リハビリテーション病棟(28床)、療養病棟(42床)を持つ地域の中核病院だ。所属する医療法人六花会および関連の社会福祉法人ポプラ会の傘下には、病院のほか介護老人保健施設、訪問看護ステーション、グループホーム、特別養護老人ホームがあり、医療・介護・福祉の各分野で地域にサービスを提供している。

退院カンファレンス後に途切れるフォロー方法も課題

退院カンファレンス後の情報共有方法など、患者のフォロー方法にも課題を感じていた。退院後も外来で通う患者の場合は、外来看護師から入院病棟に情報が寄せられることもあるが、通常、退院後は病院と患者の関係は途切れる。

 また、在宅療養の患者を訪問看護師が訪れる場合、その看護師から定期的に医師に報告がある。しかし、退院後の細かい病状の変化は、把握できないことが多く、再入院となるケースの場合、直前まで退院後の病状が病院側に共有されないのが通常だった。

「退院後の病状や日常的なケアについて、病院に情報があがってくれば、アドバイスできることも多い。多職種連携のグループが患者さんをフォローしていれば、間違ったケアなどを防ぐことができます。MCSは、情報を写真や動画で共有できるため、認識の食い違いが防げます。入院中のポータブルトイレとベッドの配置を伝えて、退院後の転倒防止に努めたり、食事時の体位や方法・食事の形態を共有して誤嚥予防に努めたりしています」

 実際に、病院+ケアマネ+介護事業者との間でMCSのグループを作ったケースでは、ケアマネが「どのような器具を使って入浴介護をしていたか」を病院に問い合わせることで、病院と同じ方法の入浴介護ができるようになった例もある。

グループホームと訪問看護師、病院医師をつなげて患者を支える

退院時の情報共有で、MCSが最も活発に使われるのは、病院から同院系列のグループホームなどの施設に移る患者の場合だ。各グループホームと訪問看護師、病院との間をつなぐMCSグループがいくつも作られている。

「退院時、『この患者さんを退院させたいのだが、そちらの施設では受け入れ可能ですか、病院ではこんな食品を摂っていたが、そちらでも使えますか』などと質問し、そのやりとりを関係者全員で共有します。MCSなら文章として残るので、その後も参考にできます」

 さらに施設に戻った後の経過についても情報が共有される。

「例えば施設から『患者に麻痺が残っていて、うまく食事を摂れない』という情報が入ってきます。病院ではその患者を担当していた看護師やリハビリスタッフから情報を集め、『その患者さんの場合は、顔の角度は何度にしてください。角度が違うと誤嚥の可能性があります』などと、細かい情報を送るのです。もちろん、電話やファクスでもそれは可能ですが、MCSは写真を撮影して添付できる。写真で伝わる情報量は言葉の比ではありません」

 同様に転倒の際にできた傷や褥瘡の程度などについても、写真が有効活用できる。

「グループホームにいるときに患者さんに熱が出た、転倒したなどの情報が入ると、すぐに訪問看護師が行って処置をすることになります。その処置内容をMCS上で確認した病院の医師が、再入院の必要性を考える材料にする。従来このコミュニケーションには相当な時間と手間がかかっていたのですが、かなり改善されました」と世鳥山氏は言う。

▼MCSで症状などの写真を送ることで、状況をより正確に伝えている事例

 同院は、付属施設にリハビリセンターを設け、院内にも回復期リハビリテーション病棟をもつなど、リハビリにも力を入れている。それもあって、施設との情報共有では、トイレ介助や車いすに乗せるときの介助の方法についての問い合わせがよくある。この場合も写真の活用効果は大きい。

「車いすへの正しい乗せ方や、場合によっては実際に歩いている様子などを動画で送ることもあります。ただ動画は、パソコンでは見られるがスマホでは見られないと言われることもあります。送信できる動画のサイズがもっと大きくできるとよいですね」

病院と診療所との入退院情報共有にも活用

病院と診療所の間の病診連携にMCSが使われるケースもある。

「当院に入院されている患者が、そろそろ退院というときに、事前の退院カンファレンスではこういう話になった、という情報をクリニック(診療所)の医師にMCSで共有します。そうすればクリニック側も心づもりや準備ができます。

 情報を受けた診療所の医師が、それに備えて支援センターへ連絡をし、サポート体制をとっていただいたことがあります。在宅を支えている診療所の先生は、医療的なことだけでなく、生活全般をみてくれるので、家族関係の情報などもいただき、カンファレンスに役立てることもでき、さらに進めた退院支援ができています」

 これまでは、病院→診療所の退院連絡は、「退院サマリー」と呼ばれる書類が1枚あるだけ。電話でもフォローするが「開業医は忙しく、頻繁に電話するのも迷惑かと思い、躊躇することも多かった」。それがMCSなら「時間があるときに読んでもらえる。了解しましたというひと言でもメッセージがあると、こちらも安心できます」

 診療所から病院への連絡も円滑になる。

「クリニックの医師から、往診したときの症状と合わせて、こんな患者だけれどそちらの病院で迎え入れは可能かという打診があります。担当の看護師がそれを見て医師と相談するのです」

「退院サマリーは退院時に1回だけですが、MCSなら継続性がある。病診連携で患者をフォローするためには、こうした継続的に使えるツールが不可欠です」と世鳥山氏。

受身から発信へ——回復期リハビリテーション病棟における院内情報共有

館林記念病院の回復期リハビリテーション病棟では、患者・家族を中心に、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、薬剤師、介護福祉士、ソーシャルワーカーがチームとなって個別のリハビリテーションを計画し、一貫した支援を行っている。とりわけ回復期は、リハビリが終われば、患者は自宅や施設に戻ることになる。そのため、その時点で患者が獲得できている、あるいは獲得できていない身体機能について、家族も含めチーム全員が正確に情報を共有しておく必要がある。

 回復期リハビリテーション病棟では上記の多職種約20名がMCSに参加し情報を共有している。

「リハビリにはいくつもの専門職が関わっていますが、それぞれ患者に対する視点が異なります。その専門的な視点をバラバラにしておくのではなく、全員で情報共有することで、患者を多面的に捉えることができるようになります。

例えば、車から玄関までの歩く距離はどれくらいか、夜間のトイレの回数はどれくらいか、などの情報が共有されると、患者が自宅に戻っても日常生活に困ることがなくなり、家族の負担も軽減され、さらにリハビリ効果を維持できるようになります」と世鳥山氏。

さらに「スタッフの意識が変わった」と言う。

「看護師だけでは患者や家族の要望に十分対応できない。そのために多職種から情報を集める必要があるが、そのためには自分も情報を出さなければいけない。」
「それまで受け身だったスタッフが、自分から情報発信するようになりました。」
「これまで人づてに申し送られていたことが、伝言ではなく直接伝わり、全体に共有されるようになった。その重要性を実感したのだと思います」

 また、同院では関連施設全体で行われている「咲笑(さわ)クラブ」という認知症の会の連絡や会報作成でもMCSが使われている。

「MCSで自由グループを作り、月例会議テーマの設定、活動報告、脳トレ・筋トレなどのトレーニングのノウハウなどを共有しています。それぞれの施設で行われている脳活性学習のデータや写真も投稿され、会報の編集作業にも活用しています」と、世鳥山氏。

▲館林記念病院が発行する会報誌「咲笑クラブ」

情報共有・多職種連携は、結果的に自分を楽にしてくれる

「私は病院内のあらゆる職種を含めた全員が積極的に連携して患者の情報を共有するようにしたいと思っています。院内の情報共有があってこその、外部機関を巻き込んだ多職種連携が可能になるからです。特に退院カンファレンスでの活用は、国が進める『退院をスムーズに』という施策にも合致する」と、世鳥山氏。

「多職種連携での情報共有は他人のためというより、自分のため。情報共有がスムーズに進むと、なりより自分が楽になるし一緒に働くスタッフの意識も変わります。ひいては、医療・介護のクオリティが向上する。そう実感しています」

この記事のポイント!

・館林記念病院では、院内での情報共有や退院カンファレンスにおける多職種連携、退院後の診療所との情報共有や回復期リハビリテーションの多職種連携でMCSを活用
・まず初めに「〇〇病棟」「△△病棟」という病棟ごとのグループを作り、看護師だけではなく多職種が参加して入院患者の情報を共有
・退院後の病状や日常的なケアにおいて、多職種連携のグループが画像や動画の共有によって認識ズレや間違ったケアの防止に取り組んでいる
・回復期リハビリテーション病棟では多職種約20名がMCSに参加。複数の専門職の視点を全員で情報共有することで、患者を多面的に捉えることが可能に

取材・文/広重隆樹、撮影/平山諭、編集/馬場美由紀

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