コミュニケーションツールが支える医療介護者の連携

HPNから経口摂取への移行を可能にした多職種連携『チームM』(東京・豊島区)

▲チームMのメンバー(敬称略)。左上から時計回りに福祉用具専門相談員・栗原俊介、耳鼻咽喉科医師・部坂弘彦、訪問看護師・村崎佳代子、歯科医師・高田靖、歯科衛生士・会沢咲子、管理栄養士・大野綾子、主治医・福与光昭、薬剤師・江村公良、言語聴覚士・鹿志村昇平、ケアマネジャー・鈴木孝幸、ほかに歯科医師・村上正治

 豊島区は東京都内でICTによる多職種連携が最も進んでいる自治体のひとつだ。2013年に在宅ICT会議が発足後、2015年には職種や行政区の枠を超えた「としま医介連」が立ち上がる。豊島区の医師会、歯科医師会、薬剤師会の三師会が積極的に関わり、2~3カ月に一度の会議開催など活発な交流が行われてきた。そのような中で、まさに「多」職種ICT連携の最初の事例となったのが、池袋・本町訪問看護ステーションの村崎佳代子看護師を中心に結成された『チームM』である。それぞれの領域のプロが集まり、互いの強みを生かしたことで、HPNから経口摂取に移行できたというその事例を紹介しよう。

患者の「食べたい」の実現にむけて、『チームM』結成からわずか4日で始動

 脳梗塞後遺症、嚥下性肺炎、嚥下障害で入院中の70代男性。病院では胃ろうをすすめられたものの、患者本人の「食べたい、家に帰りたい」という強い意思を、看取り覚悟で尊重したいというのが家族の思いだった。そこで主治医が患者タイムラインを作成し、退院前から情報共有を始める。この段階ではHPN(790kal)で、経口は内服時の3%とろみ水のみという状況だった。退院後、患者宅を毎日訪問した村崎看護師は観察を続ける。

「薬剤師に誤嚥リスクを回避する服薬形状の相談をし、内服介助を続けました。ただ、状態を見るとむせも発熱もないし、痰も増えない。『食べたい』という気持ちに応えたいのですが、どうすればいいのかと…」 そんな時、としま医介連のミーティングに参加した際、「ここに摂食嚥下のプロがこんなにいる!」と思いつき、目の前が明るくなる。ミーティング終了直後に声をかけ、その場で「チームM」(Mは患者のイニシャル)を結成。さっそく主治医と患者家族の了承を得て、既にタイムラインに入っていた主治医、訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャー(以下ケアマネ)に加え、歯科医師、歯科衛生士、福祉用具専門相談員、言語聴覚士(以下ST)が加わった。結成から始動までわずか4日というスピードだった。

カンファレンスもMCS上で行い、迅速に情報共有

 チームMとしての初回訪問時、歯科医師が義歯の調整と嚥下機能のスクリーニング検査を実施し、まずは1日2食、1−j程度のゼリーと2%とろみ液を交互にとる。その結果をもとにMCS上でカンファレンスが行われた。STの鹿志村昇平氏は間接訓練として自主トレ方法をアドバイス、薬剤師の江村公良氏は輸液・服薬を管理。ケアマネの鈴木氏はヘルパーや訪問入浴の手配、チームMと家族間のサービス調整などをタイムラインで行った。このときに役立ったのが、文書や画像がアップできる機能。口腔ケアの手順書、車いすのポジショニングの結果報告、カロリー・水分・嚥下状況のチェックシートなどがわかりやすく共有できた。また電話やファクスで情報をやり取りしていた頃に比べ、患者の体調もすばやく把握できるようになったという。「初回訪問後に体調を崩されて、焦ったことがありましたね」とケアマネの鈴木孝幸氏。発熱で熱性痙攣をおこし入院したので、メンバー全員が誤嚥を疑ったという。しかし熱中症であったことがわかり、その情報や入院中の様子もすぐにMCSで共有、事なきを得た。

耳鼻咽喉科医が加入し、HPN抜去に向けてチームとしての目標を明確化

熱中症入院からの退院後、「食べる」ことに向け本格的にチームが稼動する。このタイミングで、耳鼻咽喉科医の部坂弘彦氏と管理栄養士の大野綾子氏が加わった。「途中から加入しましたが、患者さんの状態は書き込みのタイムラインをさかのぼって見ればわかりました」と部坂医師。チームMに加入するまで、MCSはほとんど利用していなかったというが、動画共有できるメリットを実感したという。

「内視鏡下嚥下機能検査(VE検査)の喉の写真と、実際に飲んでいるところの動画を合成したものをMCSにアップしたのですが、喉の所見だけではなく、飲み込もうとしているのか、ためらっているのかまでよくわかる。これを見ることで、チーム全員がやる気になるし、今まで以上に責任感もでてきたと思います。また訓練方法なども口伝えではなく動画でアップすると、興味を持てるし正確に伝わるので、関わる医療スタッフの教育にもなりました。」

初めてこの動画をみた鹿志村STはこう話す。

「私は普段、外から音を聞き、喉の動きを見て評価するのですが、実際に中の状態が見られたことで自分の評価との整合性が取れました。訓練計画も立てやすかったですね」

VE検査の結果を共有し、チームで検討した結果、1回量はキープしたまま、食形態を1日2食から3食に増やすことが決まる。

また部坂医師が入ってより詳しく患者の状態がわかったことで、チームMのゴールが明確になった。

  • 嚥下訓練により嚥下機能を向上させる
  • 嚥下の様子と食事形態を確認しながら、安全に食事をステップアップ
  • 摂取カロリーが増し栄養状態が改善したら、HPNを抜く
  • HPNが抜けたら、以前のようにデイサービスやショートステイを利用する
  • 介護負担を軽減し、患者の生活の幅を広げ、豊かな在宅療養につなげる

これらをMCSを通じて全員が確認し、チームが一丸となって目標達成に向けて動き始めた。

▲VE撮影の様子。動画と画像をアップして状況を共有

退院140日後にHPN抜去、デイサービスやショートステイ利用も開始

 1日3回食になった後の状況や、「3回食べられてうれしい」という患者の感想もすぐにタイムラインで共有される。HPN抜去に向けて、管理栄養士から家族への食事指導も始まった。食事形態やカロリーについては、各職種から方向性や指示、アドバイスが書き込まれた。そしてついに退院140日目にHPNを抜去し、HPN管理のための訪問看護は終了となった。

 チームMに参加した薬剤師にとって、これは初めての経験だったという。「HPNの処方が終わるのは、通常は患者さんが亡くなられた時か再入院の時なので、今回のケースは印象的でした。退院当初は私が持っていく高カロリー輸液や栄養剤が命綱だったわけですが、みなさんの活躍にともなって、どんどん不要になりました」訪問看護師の訪問件数も減少する。

「HPNが入っている間は週1回の訪問が必要でしたが、輸液の管理がなくなる抜去後は月1回に減って、そこからは鹿志村さんがメインに。何かあったら電話をくださいというだけになりました」 栄養状態やリハビリ時の状況も改善され、食形態もアップしていく。162日目にはデイサービスも開始された。

▲デイサービスでの様子もアップ

「2回目のVEを実施したのがこの頃です。前と比べると全然違うんですね、喉の中の状態が。目の表情も生き生きして、姿勢も良くなりました」(部坂医師)

メンバーにとってもこれが励みになる。村崎看護師は「実際に改善している様子がダイレクトに確認できるので、モチベーションがあがりました」と顔をほころばせる。

 退院直後は経口摂取が内服時のとろみ水のみだったことから考えると劇的な変化だが、一方で介護する家族の側には介護のストレスが出始める。夜の食事は患者の息子が介助していたが、食事に時間がかかることや、食前の口腔体操の声かけなどが面倒に感じるように。

「多職種の方たちがアドバイスをくれるのはありがたいが、それがプレッシャーになることもある。やったほうがいいのはわかっているけれど、それができない」と、村崎看護師に打ち明けられたこともあった。一度、介護の過労で入院していた彼の思いに寄り添えるよう、3回目のVE実施後、チームMで議論して、食事方法を変更することを選択。ヘルパーが介助する2回の食事のカロリーをアップし、息子が担当する夜は軽食や水分補給程度にして、負担を軽減した。月1回、ショートステイが利用できるようになったことも、助けになった。

 その後は、在宅で最後まで経口摂取できることを最終目的に、ソフトランディングしていくことがチームMとしての取り組みとなる。

2017年3月退院準備期(3月24日タイムライン作成⇒3月30日退院。平均書き込み回数3回/日)
2017年4月チームM始動(月別書き込み回数最高月:平均書き込み回数1.9回/日)
2017年5月熱中症による熱性けいれんで入院(5月11日~5月28日まで18日間:在宅期間は13日間⇒平均書き込み回数2.5回/日)
2017年6月初回VE:耳鼻咽喉科医・管理栄養士参加
⇒チームM目標設定「嚥下訓練により嚥下機能が向上し、嚥下の様子と食事形態を確認しながら安全に食事がステップアップし、摂取カロリーが増し栄養状態が改善し、IVHが抜けることが目標。IVHが抜ければ、以前のようにデイサービスやショートステイが使え介護負担の軽減ができ、生活の幅も広がり豊かな在宅療養につながる」
2017年7月HPN抜去に向けた取り組み・サービス調整
2017年8月HPN抜去
2017年9月デイサービス開始・2回目VE
2018年2月ポジショニング提案と息子のプレッシャー表出・3回目VE
▲チームMのMCSへの書き込み状況(1日平均)。退院から1年以上にわたって活動が続いているチームMだが、患者の容体が安定しているときは、書きこむ回数や量が減ることがわかる。チーム1人当たりの書き込み数は月に0件~数件と効率的だ

このチームができたことで、同様の事例にすぐに対応できるようになったのも収穫のひとつ。初回訪問の歯科医のスクリーニングで、残念ながらこれは無理そうだという合意にいたったケースがあったが、チームMの前例があったからこそ、リクエストがあったときに迅速に動くことができたのだろう。

ICTツール導入前と比べて、現場で何が変わったか

 場所や時間の制約を受けずに多数のメンバーで情報を共有でき、添付された写真や動画で具体的な状況が確認できるMCSのメリットは誰もが実感するところ。その他にも、導入前と比べて何が変わったのか、チームMのメンバーに聞いた。

村崎看護師「連絡調整に時間がかかったので、患者さんの体調が良い時期にすぐ関われなかったこともありましたが、それがなくなりましたし、事前に書き込みを見ることで、対策を立てて訪問することもできるようになりました」
江村薬剤師「医師の処方や薬を飲む目的を、ヘルパーさんと共有しやすくなりました。私は2週間に1度、必ず薬を届けにいくので、その時に感じたこともすぐ書き込めます。ヘルパーさんが医師に直接話すのをためらったときに、私が代わりにMCSに患者さんの状態を書き込んだこともありました」
会沢歯科衛生士「管理栄養士さんのアドバイスを見ていたことで、他の患者さんにも栄養士さんや先生に相談してみては、と声をかけられるようになりました。請求金額の連絡や保険証変更など事務的なことも、ケアマネさんの手をわずらわせず、ご家族と確実にやり取りできるようになったのも助かっています」
栗原福祉用具専門相談員「医師や他の専門職とやり取りする中で、自分の専門性をより高めなければという意識が増しました」
鹿志村ST「訪問時に、疑問や不明点、逆に提案したいことも出てくるのですが、コメディカルからすると、医師にわざわざ聞くのは敷居が高いこともあります。MCSだと、思っていることが伝えられ、医師も反応してくださるのがとてもやりやすかったです」
鈴木ケアマネ「今回が初MCSでしたが、これがなかったら患者さんの結果はかなり違っていたと思います。対応のスピード感が全然違いましたから。本来ならケアマネが電話やファクスで行う調整も、連絡を取りたい人たち同士がMCS上でやってくださったので、私の負担はかなり軽くなりました」
部坂耳鼻咽喉科医師「添付の文書や図がすぐに見られるので、指示が伝えやすくなりました。あと、専門職がみんなにわかるように平易な言葉で書き込んでいることで、互いに勉強になっています」
高田歯科医師「MCSを見ると経過がすべてわかります。ワンストップで多くの症例が集まることで、さまざまな患者さんに経験が生かせます。そして、チームを作ることで、患者さん本位という意識がより強まります。チームスピリッツが醸成しやすくなる」

 あらかじめ顔見知りであったことがチームがうまくいった要因でもある。「全く知らない同士でつながるのは難しいと思います。豊島区では医師会と歯科医師会、薬剤師会の三師会がうまく交流しているし、としま医介連の会議でも多職種メンバーがよく顔を合わせる関係性があったので、チームを組むのも容易でした。顔の見える関係があった上でICTを使うと、非常にうまくいくと思います」と高田歯科医師。

 また、同じチームに歯科医師と耳鼻咽喉科医がいることが意外だという声もあった。部坂医師によると「以前はVEの扱いをめぐって耳鼻咽喉科医と歯科医で意見が合わなかったことも…。ただもともとつながりがありますし、話し合いを重ねたことで、今は良い協力体制ができています」 ICTネットワークの導入で、スタッフ間で情報共有をするために費やしていた時間や手間が大幅に軽減され、患者にとって最適なタイミングで迅速に対応することが可能になる。互いに情報を共有することで、専門職の質、医療の質の向上にも確実に寄与するだろう。

今後ますます増えていく地域在宅医療や医介連携に、大きな助けとなるに違いない。

この記事のポイント!

・『チームM』は、領域のプロが集まり、互いの強みを生かしたことで、HPNから経口摂取への移行を実現
・初回訪問時に歯科医師が行った嚥下機能のスクリーニング検査の結果をもとに、チームMとしてMCS上でカンファレンスを実施
・耳鼻科医の加入後、目標が明確化・共有されたことでチームが一丸となった
・家族の負担感が増えたことへの対応策についてもチームで議論して解決

取材・文/清水真保 撮影/谷本結利

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