コミュニケーションツールが支える医療介護者の連携

区境を超えた多職種連携「としま医介連」7年の軌跡(東京都・豊島区)【後編】

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区境を超えた多職種連携「としま医介連」7年の軌跡(東京都・豊島区)【前編】

東京・豊島区で開業する医療法人社団創成会 土屋医院の院長である土屋淳郎医師は、地域の多職種連携を進める「としま医介連」を立ち上げ発展させてきた立役者の一人。前編ではメディカルケアステーション (MCS)との出会いから「としま医介連」立ち上げまでを見てきた。後編では今後の展望を含め土屋氏の思いにも迫ってみたい。

▲医療法人社団創成会 土屋医院 土屋淳郎院長

ベースの土壌にICTツールが加わって進んだ地域連携

 多職種連携におけるICTの利用がなかなか進まない地域や自治体が多い中、豊島区ではスムーズに導入できた状況を指して”豊島区の奇跡”と表現されることがある。この奇跡はなぜ起きたのか。ひとつには、もともとの土壌として豊島区では医歯薬の三師会と行政の関係性がよかったことが挙げられるだろう。「1990年ごろの地域医療部では在宅医療がテーマとなり、その頃には私の父も関わっていました。2008年度~2009年度には東京都のモデル事業として在宅医療ネットワーク推進事業を実施し、在宅医療連携推進会議の前身となる在宅医療推進会議が立ち上げられ、その頃は要町病院の吉澤先生が中心メンバーの一人だったようです。以前からこの地域では在宅医療に力を入れ始めていて、それを行政も一緒に取り組み、医歯薬が連携する、という流れができていたのだと思います」。

 土屋氏の父や要町病院の吉澤氏らが中心となり、長年地域の在宅医療に力を入れてきたことから、自然と多職種の顔の見える関係づくりが進んでいたのだろう。そして何より、土屋氏が父から引き継いだ「患者中心の医療」が、この地域に根付いているということがある。こうした地盤があったからこそツールとしてのMCSがうまく機能し、さらに連携が進んでいると考えられる。

 下図は土屋氏がよく講演などで使うものだが、まず患者が中心にいて、その外側に医療現場のスタッフや事業所など人のネットワーク、さらにその外側に情報のネットワークがあるという概念を表している。「かつて医歯薬が連携する三角形のような図を見せたとき、今の豊島区医師会長の髙橋先生に『中心に患者さんがいるほうが良いね』と言われ、なるほどなと。少しずつ手直しして今のこの図は完成形に近づいているかなと思っています」。

 この図にもあるが、豊島区には全国的にも珍しい歯科相談窓口が存在する。例えば虫歯や義歯の調整など歯科の治療が必要な患者がいた場合、相談窓口である『あぜりあ歯科診療所』に連絡を入れると、担当の歯科医を決めて在宅に派遣してくれるというシステム。摂食嚥下障害の評価に関しては歯科医と耳鼻科医の協力体制ができている点も特徴的だ。特に豊島区の歯科の在宅診療の取り組みは非常に進んでいて、海外からも視察が来るほどだという。

(出典:東京都医師会「第30回 医療とITシンポジウム」講演3資料)

 前述の「としま医介連」メンバーミーティングの席でも、山下氏はじめ数名からこの”豊島区の奇跡”についてのコメントが聞かれたので、ここに紹介する。

  • 「私が立ち上げから見ていても、この会(としま医介連)がこんなに長く続いて、求心力を持っていることはひとつの奇跡だと思っています。それは、この会がフラットでお互いを尊重し必要としているから。多職種それぞれが持つプロフェッショナリズムのすごさをお互いに改めて認識して、これから次のステップに進んでいく気がしています」(山下診療所 大塚 理事長・医師 山下巌氏)
  • 「豊島区では在宅医療連携推進会議によって三師会の連携がうまくいっていたところにMCSが加わり、さらにうまくいっている。MCSはあくまでもツールなので顔を知らない人とはつながらない。こうした機会に人となりを知って、初めてICTが効果を発揮するのだと思います。人口30万人弱の豊島区はちょうどいいボリュームの地区でもあり、コンパクトシティの多職種連携のモデルになるのではないか」(豊島区歯科医師会副会長・歯科医師 高田靖氏)
  • 「ICTツールの導入で職種に関係なく同じところに立つということが実現し、実際に患者さんにとってのメリットがあるから、連携が広がっていったのが豊島区の経過だったと思います。本当の意味で医療を考え、同じ立場に立とうという意識を持つメンバーが集まったから、こうした会が作れたのではないでしょうか」(豊島区在宅医療相談窓口・医療ソーシャルワーカー 武山ゆかり氏)
▲左から山下診療所 大塚 理事長・医師 山下巌氏、豊島区歯科医師会副会長・歯科医師 高田靖氏、豊島区医師会・医療ソーシャルワーカー 武山ゆかり氏

チームで問題を解決するこれからの時代にこそICTが力を発揮

 日曜・祝日を除く毎日の外来診療と訪問診療に往診、医師会や医介連の活動、さらには東京都医師会医療情報検討委員会の副委員長も務める土屋氏。だからこそMCSは欠かせないツールとなっている。2019年2月現在、在宅患者と外来患者合わせて100人以上の患者グループがあり、電子カルテと連動して活用しているという。「介護保険を使っている患者さんはケアマネさんとの連携が必要なので、外来の人でもMCSで連絡を取っています。メンバーは患者さんによって違いますが、ケアマネさんと私だけだったり、訪問看護師や薬剤師が加わったり。症例も認知症や糖尿病などさまざまです」。

 患者と直接やり取りすることは少ないが、家族とMCSでやり取りすることで、いい関係ができたというケースがいくつかあるので、その一例を紹介しよう。80代の男性で施設に入所しているケース。この家族は父親が食べない、便が出ない、寝てばかりいるといった少しの変化でも心配になり、以前は施設のスタッフや土屋氏に頻繁に電話があった。不安や不信感から一時は施設を出ると言っていたこともあった。そこでMCSにその家族を招待してこまめにタイムラインでやり取りするようになるとその不安はかなり落ち着いてきて、「MCSを使うことで心配も減り、本当にありがたい」と話すまでになったという。「このケースのように、心配しているご家族がMCSで多職種といつでもつながる状況ができると、安心感が得られてストレスも減少するでしょうし、お互いの誤解も生まれない」。

▲電子カルテとMCSをシステム連携させ、デュアルディスプレイで同一患者を表示して活用
▲土屋氏は他職種と患者との”顔の見える関係”も重視。患者のアイコンにもできるだけ顔写真を掲載してもらっている。

 土屋医院があるのは、夕方ともなれば桶を抱えたお年寄りが銭湯へ向かう姿も見られるような庶民的な地区だ。ここで、先代のように信頼される地域のかかりつけ医になることを目指して医師になったという土屋氏。これからもかかりつけ医としてICTを使って患者とうまく情報をやり取りするための取り組みを続けたいと話す。「在宅も外来も含め、患者さんには治療だけじゃなく、生活を支える医療としてベストなお手伝いをしたい。とくに外来診療では月1回5分話して終わりのこともあり、生活のバックグラウンドが分かりません。そのためにICTも活用できるといいなと思っています」。さらに、豊島区としての今後についての思いを聞いた。

「これからは様々な問題を個人ではなくチームで解決していく時代。そのためにもチームをまとめて情報共有するツールとしてのMCSに期待しています。最近のトピックとしては、地域の基幹病院がMCSを使って地域の医療機関と連携していくことになりました。これまで課題だったICTを使った病診連携が進みはじめたところです」と土屋氏。2014年に公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団の助成事業により作成したMCSのリクエストアプリを豊島区後方支援病床確保事業に活用していくことも検討中だという。

 土屋氏がMCSと出会ってからおよそ7年。現在では豊島区内の登録施設数は2019年3月11日現在440に。「としま医介連」のミーティングも前述の通りすでに19回を数え、参加者は44人、うち10人ほどの初参加があり、まだまだ広がりを見せる勢いだ。この場に集まったメンバーは行政区も職種も所属も多種多様、だれもがフラットに発言できる雰囲気がある。そこに、この会議をリードする土屋氏や山下氏らのスタンスを見ることができた。

取材・文/金田亜喜子、撮影/谷本結利

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