コミュニケーションツールが支える医療介護者の連携

地域への繋がりを強化する中核病院のチャレンジ (北海道・苫小牧市立病院)

北海道工業地域を代表する工業都市・港湾都市として知られ、人口17万人を抱える苫小牧市。苫小牧市立病院は、苫小牧市を含む東胆振及び日高医療圏における高度医療を提供する中核病院としての役割を担っている。

本邦においては、高齢化・人口減少社会への対応のため、病院の機能分化・地域との連携が求められて久しい。中核病院で完結していた医療を地域で完結させるような体制へ変化させるためには病病・病診連携の強化が不可欠で、そのために施設間のコミュニケーションの質的・量的双方での進化が現場では起こりつつある。

苫小牧市立病院循環器内科では、2019年4月より圏域における8つの病院・医科診療所とMCS(メディカルケアステーション)を活用して情報共有を行う取り組みが開始された。

取り組みを通じて中核病院側・診療所側双方にとってどのような効果や利点があったか、またMCSのようなICT(Information and Communication Technology(情報通信技術))、SNSを活用したコミュニケーションを実施していくことにどのような課題があるか、苫小牧市立病院循環器内科・町田氏、おおはた内科循環器クリニック・大畑氏、すがわら内科呼吸器科・菅原氏の3名に伺った。

▲町田 正晴 (医師) / 苫小牧市立病院 副院長
 ▲大畑 純一 (医師) / おおはた内科循環器クリニック(苫小牧市) 院長
▲菅原 洋行 (医師) / すがわら内科呼吸器科(苫小牧市) 院長

病院と診療所のコミュニケーションに見出したSNSの可能性

 病院・診療所を繋ぐ連絡手段としては電話や手紙、メールといったものがまだまだ支配的であり、MCSのようなICTがその連絡手段として採用されているケースはまだまだ少ない。患者の情報共有に関しては病院の地域連携室を介した紹介状(診療情報提供書)でのやりとりが中心的な役割を果たしてはいる一方で、その”後”の情報交換・共有がなかなか進まず、紹介後の患者の状況がわからず双方が足並みを揃えて同じ患者を診ていくための土台づくりに困難を感じるという声も聞こえる。

「SNS的なものを使わないときの一番の課題というか、フラストレーションがたまるところは、やはり病院、診療機関の、お互いの先生方の時間をリアルタイムで占有しなくてはならないというところが一番」と今回の新しい情報共有手段を活用した取り組みを積極的に推進してきた町田氏は語る。

 緊急な要件であれば、電話で相談するのはやむを得ない。しかし、ひと段緊急性が落ちるがもう少し意見の交換をしておきたいようなことに関しても電話をかけ、相手方の貴重な診療時間を割いていただくのは非常に心苦しく感じていたという。とはいえ、手紙でのやりとりでは、時間も要し、様々な事情によって返事がこないケースもあり、また、返ってこない場合には追って返事を催促するということもなかなか難しい。

「SNSを使うことによって、ある程度相手に情報が届いていることもわかりますし、それから相手の時間を占有しないでご回答いただくこともできますし、そういったメリットがあると感じ、最初にまずこういうことをやってみようと思ったんです」(町田氏) 。従来型のコミュニケーションスタイルとは異なる、SNSを活用した病院医師スタッフと診療所の開業医を繋げる取り組みは、従来型コミュニケーションの窪みを補完することを期待してのものだった。

 「既存の方法でも、『インフォメーション』という形は、手紙だとか、今までの方法でも可能だと思うのですが、今回の取り組みは『相互のコミュニケーション』ができるというところが非常に有用だと思います」と菅原氏は正確で密度の高い情報のまとまりを一方的に”知らせる”ことに特化した連絡手段に加えて、相互の情報共有に特化した連絡手段を病院-診療所間で得たことに評価を置いた。

 すがわら内科呼吸器科より苫小牧市立病院に患者を紹介する場合には、ある程度重症な症状を持っていたり、問題点や垣根があるため、そういった複雑で配慮を要するケースが多く、一方的に患者を紹介したら終わりというような簡単なものではないと菅原氏は言う。

 「今この方法(SNS)を使うと、患者さんの紹介後の連絡であるとか、それから一緒に患者さんを診ていく上で必要な連絡も早く行えるようになり、非常にうまくできるような形で、大変ありがたく思っています」(菅原氏)。

 一方、おおはた内科循環器クリニックと苫小牧市立病院間では、現状苫小牧市立病院からの情報発信・連絡という一方向での運用となっているという。

 「当院としては、大きい病院に紹介するときにいつも、”こういうふうであったほうがいいな”と思うことの一つは、そもそも患者さんが紹介した病院にきちんと行ったかどうかということです。以前からそこに通われている患者さんの場合なら良いのですが、初診になる患者さんの紹介状を書いて紹介するパターンだと、果たして本当にその患者さんが病院にかかったのかどうかがわからない、というパターンもあります。そういうときには以前より、苫小牧市立病院からすぐにお手紙などで連絡をいただけていました。しかしそれでも、手紙だと数日はかかってしまいます。現在は、(MCSを通じて)ほぼほぼ患者さんが来院したタイミングで教えていただけるので、それは非常にありがたいなと思っていました。またいつもスマホを持ち歩いているのでそのような連絡がすぐ確認できることも非常によかったです」と、大畑氏は患者紹介後の受診状況がMCSを介してラグなく、共有されることに有用性を感じていたと語る。また、紹介をしていないおおはた内科循環器クリニックの患者がたまたま苫小牧市立病院にかかり、入院したというようなケースであっても苫小牧市立病院から連絡があり、それもまた取り組みを通じての利点であったと評価する。

 診療所の医師として大きな病院へ患者を紹介するときには、幾分かの心配を感じることもあると大畑氏は言う。適切な紹介であったか、あるいは自分自身が思っていたような状況であったかどうかといった心配についても、MCSを通じての苫小牧市立病院との相談で状況がわかるようになり、今後の検討に役立つ側面もあるという。

SNSを使うことで見えてきた意外なメリット

 文書(診療情報提供書/紹介状)・電話・ICT(SNS)、それぞれの使い分けについても実際使い始めてみないと実感としてわからないという声も多い。町田氏は逆紹介の連絡にはやはりまとまった情報を文書、診療情報提供書で提供するという形になるため、そのような連絡においては、MCSは現状では役立っていないと話す。

 「例えば患者さんの薬の使い方とか、この患者さんのこの薬をやめてよろしいでしょうかとか、そういうようなことをお問い合わせいただいたりすることがあります。おそらくは、”わざわざ電話で聞くのもな・・・”、とお感じになられているだろうことを、SNSを使ってご相談いただいています。我々としてはそういうことに時間を取られずに、且つ、時間を置かずに正確な情報としてお返しすることができるというのが、まず一番だと思っています」と、町田氏からは逆紹介後の患者の状況や相談について診療所からの相談を受けてフォローアップする目的にSNSが適しているという”使い分け”のあるべきについて意見を得た。

 そして、SNSを使い続けてみての経験として、自施設(苫小牧市立病院)の他の医師がどの診療所の先生から紹介を受け、どのような返事をしているのか、どのような診療情報を提供しているのかというのが”見える化”され、それによって診療の質の凹凸がなくなってきているのではないかと感じているという。これまで電話や手紙では施設間のやりとりであっても一対一、個人対個人のコミュニケーションに閉じてしまっていた。また電話応対では、その対応記録は確認しづらい。しかしMCSにおいては、苫小牧市立病院側ではチームとして循環器内科医師メンバー全員が同じグループに参加し、診療所と繋がっているため、他の医師が投稿した内容を確認することができる。それが結果として院内の同じ科、チームとしての病病・病診連携対応の質の向上に寄与するという意外なメリットも町田氏からは挙げられた。

病院と診療所を繋ぐSNS  目的・運用ルールをどのようにつくっていくか

 SNSを用いた地域連携を始める場合、利用目的や運用ルールなどを、利用を提唱したり、参画する人々によって厳密に定めるケースが多い。しかし苫小牧市立病院の今回の取り組みでは、運用を開始する前に制限などを厳しく設けずにスタートし、利用してみて徐々に型をつくっていく方針であったことを伺った。

 「当初は、キックオフとして、心不全などの患者さんたちの管理をなんとか地域でできないかという思いで始めたところもあったんです。しかし、キックオフをしてこういうことを始めましょうとお話をさせていただいたときから、新型コロナウイルスの感染が拡大してしまいました。年に一度皆さんに集まっていただき、今後の利用の仕方を検討しましょうと考えていたのですが、対面で顔を合わせることがまったくできない時代になってしまいました。今までの使い方を参加者で振り返ることなくここまで来てしまったというのが実際のところです。しかし、むしろそれである意味融通無碍に使えるようになったのかなと思いはじめました。つまり、変な縛りを決めないことです。例えば当初は心不全という、結局狭い範囲で使おうとして、ずっとそのようにしか使っていなかったかもしれないんです。ところが実際は、むしろ循環器のご専門ではない先生方からご質問をいっぱいいただいたりと、そういうつながりもできつつあります。うちの病院としても、本当はこれが消化器内科の先生、一般内科の先生とかに広まっていって、自由にいろいろな開業の先生方から質問や問い合わせが来るような体制を整えられれば一番いいなと、今は思っていますね」(町田氏)。

 菅原氏も、苫小牧市立病院循環器内科の医師から決まった形・内容・タイミングではなく、折々に様々な連絡を受けとることができるようになったことで、率直にMCSに参加できるようになったと話す。

 「まず相互のコミュニケーションがとりやすくなり、その次に今後どういった形でこの方法を広げていくか、利用していくかというのが決まっていくのかなと感じています」(菅原氏) 。MCSの普及においても、まず顔の見える関係性など、ある程度MCSを用いて連携する相手のことをわかっているという状態が肝であると語る利用者は多い。コロナ禍で顔を合わせにくい状況下で、地域連携の重要性を痛感し、地域の診療医との連携の深度を増すためにMCSなどを通じて積極的な情報発信・共有を行ってきた苫小牧市立病院が、地域のそれぞれの診療医とより密な関係性を築きつつあることが伺える。

 一方で大畑氏からは、MCSを用いたやりとりについて運用目的やルール、立ち位置が明確にされていないことの課題感も提示された。既存の連絡手段と比べて、相手の時間を奪わないなど、他にはない利点があることは感じているが、一方でどの”連絡”をSNSに置き換えるべきなのか、あるいは置き換えていかないのかピンときていない部分もあると言う。

 「常々、僕も紙とか電話とかFAXなどの連絡手段を、将来できるだけなくしていきたいなと思っています。ただ僕らの側からすると、MCSなのか普通のメールなのかというところにはそれほど大きな違いを感じていません。むしろ、MCSしかりメールしかり、こういうツールに対してどういう運用をするのか、どこまで何をするのかというところのほうが大事なのかなという気はしました」(大畑氏)。

 例えば苫小牧市立病院とのやりとりについて、地域連携室を通して連絡しているものを、MCSを通じて直接やりとりしたり、地域連携室と診療所の事務間でのやりとりをFAXや電話で行っているものをMCSなどで置き換えていくなど、ルールを決めればできなくはないと大畑氏は語る。新しい連絡チャネルが生じたとき、それが活発になればなるほど、既存の連絡手段とどのように目的と役割を区別し、使い分けていくのかという問題に直面する。そこが曖昧であると、どの手段で連絡すべきかについて、利用者ごとに解釈違いが起こるなど混乱を招くことは想像に難くない。大畑氏の指摘は、結局はSNSもただのツールであり、何の目的にどう活かすかをSNSの参加者が自ら考え、まとめることこそが本質であることの言い換えでもある。

 使い始める前に厳密に目的やルールを定める。あるいは苫小牧市立病院のようにまずは使ってみて利用感やSNSでの距離感を掴んだ上で、どう活用していくか目的やルールを定める。どのアプローチを選ぶか、誰が主導するかといった課題はあるが、いずれにせよSNSの連携当事者全員で取り組んで決めていくべき内容なのかもしれない。

今後の展望

「やはり一番の展望は、すべての科に広めたいというのが一番です。総合病院で、市立病院で、いろいろな診療科があり、ある程度総合的に対応できる体制が整っています。ただ、どうしてもそこの各科の性質というか、先生方の考え方の違いもありまして、必ずしもすべての科が院外の先生に同じような対応ができているということにはなっていないと思うんです。もう少しコミュニケーションを取りやすくして、自分の専門外のことでも簡単にお問い合わせができるようにする、ということがやはり最終的な目標です。そのためにまずは循環器内科で試してみようということで始めた背景もあります。もう一つ、北海道は同じ医療圏であっても非常に地域が広いため、救急車などで病院まで患者さんをよく送ってくださる地方の病院の先生方とつながり、特に画像などを簡単に送ることができるので、心電図を写真で撮って共有するなどそういう画像も利用したコミュニケーションを遠方の先生と取れるようになってくればよりいいなと考えます」(町田氏)。

 地域の診療所や病院とのコミュニケーションのハードルを引き下げることで、結果的に病院に送るべきか悩む医師がより早期に相談ができ、適切なアドバイスを受けることで患者の循環も円滑になるのではないか。苫小牧市立病院の地域医療に積極的に関わっていく姿勢がMCSの活用の展望に読み取れる。

 一方で町田氏は院内に徐々に広げていくことの難しさも語る。

 「いちばん最悪というか、よろしくないのは、地域の先生方からいろいろなメッセージをいただいているにもかかわらず、返信しないことです。いま当科では、我々も当然見ていますし、事務担当者もいろいろご連絡が入ったのを見逃さないように、必ずチェックしています。そのうえでお返事なりを差し上げているわけですが、この運用がさらに広がって、院内の全てのドクターに広がった後、そこのドクターがきちんと返しているのかどうかを全部チェックするのは、けっこう実は厄介な問題だと思うんです。これは、少しでもできないところがあるとやる意味がなくなってしまいます。逆に、害になってしまいます。100%できるからこそいいことであって、これが90%、つまり、10%の抜けがあると、これは逆にやらないほうがいいと感じてしまいます」(町田氏)。

 まずは、町田氏の言う、「100%できる科」から徐々に広げていくという想定をしているという。これに対して大畑氏から、市立病院の先生方にとって、却って大きな負担になっていないかを懸念する声もあがった。「実はそれほど面倒ではないんですよね。診療情報提供書はしっかりと書かせていただいていますけれども、それ以外のこと(MCSで共有すること)に対しては、簡単に『◯◯をしました』『結果はこうです』といった、その途中の詳しいことは省いた形で共有しています。MCSで長い文章を打てないということもあります。これは逆にいうと失礼なのかもしれませんけども、その程度でのやりとりとさせていただいていますので。ですから、それほど我々の労力が取られているということは、みんな感じてはいないのかなと思います」(町田氏) 。この町田氏の話を受け、菅原氏からは苫小牧市立病院の先生方に負担になりすぎず、時間を割かれすぎずにできるのであれば、ぜひ今の取り組みを継続してほしいという希望も呈された。当初の想定であった心不全患者に限らず、COPDを抱える患者など菅原氏の診療所で治療ができる患者についても、苫小牧市立病院と緊密な連携をとることで、積極的かつ継続的に治療を行うことができると考えていると話し、今後のMCSでつながることができる苫小牧市立病院の他科への広がりへの期待も伝えられた。

 「SNSというのは今もそうなんでしょうけど、SNSの世界の中で、たぶん次々と新たな使い方が生まれてきていて。それはきっといろいろな制限をかけずにやっているから、様々な使い方が自然発生的に生まれる。その結果、いいものが生き残っているということだと感じます。ですから、今までどおり、あまり制限はかけずに利用していきたいなと思います。つながる地域の先生方のご専門の範囲も広げていって、その先生にとって、ご自分のご専門でないところを補完するようなツールとして輪が広がっていけばいいかなと。(苫小牧市立病院という)一つの機関を中心として、放射状にコミュニケーションが展開されることで、非専門のところでもつながれるというシステム、体制になれば一番いいのかなと、今、僕の中では思っています」(町田氏) 。

 MCSをはじめとするSNSを地域の中核病院が地域医療連携のために積極的に活用していく事例は、まだまだ希少だ。町田氏の描く理想の形が実現することで、地域医療連携の環がより太く、密接になり、結果としてより有効かつ効率的な医療資源の活用に繋がることが想像できる。今後の地域における病病・病診連携の深化に少なからずICTが貢献できることを願ってやまない。

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