コミュニケーションツールが支える医療介護者の連携

介護から始まる ~社内~多職種~地域~ 連携の軌跡

この記事のポイント

・株式会社ツクイは、デイサービス事業所数において国内シェアNo.1を占める企業
・ICTツールを用いた多職種連携強化のために、顔の見える関係作りを大事にしている
・MCS活用について、社内で効果検証を行った
・介護業界、介護従事者への熱い思い、志を語る

 

 全国に500カ所以上のデイサービス事業所を展開する株式会社ツクイは、2020年にホールディングス体制に移行したツクイグループの介護事業を担っており、デイサービス事業所数は国内シェアNo.1を占める。ツクイの介護は、創業者の母親が認知症となったことがきっかけで、すべての人びとに良質な介護サービスを提供したいという思いから始まった。同社は、グループミッションの『超高齢社会の課題に向き合い人生100年幸福に生きる時代を創る』のもと、超高齢社会の課題解決・お客様や地域と向き合い、現在ではデイサービスを中心に、在宅介護サービス(訪問介護/訪問入浴/訪問看護/居宅介護支援)、居住系介護サービス(有料老人ホーム/サービス付き高齢者向け住宅/グループホーム)を全国展開している。

 同社サービス管理部地域戦略課の石岡基氏と今井儀氏は、エリアサービスコーディネーターとして、石岡氏は多摩南エリア、今井氏は仙台市を中心に東北圏域でそれぞれの地域の特性を把握し、旗振り役となってニーズの情報収集を行いながら幅広い職種の方と関係を作り、地域貢献のため活躍している。今回、会社や職種の垣根を超えた地域連携の構築に向けた日々の取り組みについて話を聞いた。さらに今井氏からは社内でのMCS利用による効果検証、石岡氏からは介護職のあるべき姿についても語ってくれた。

▲石岡 基氏(介護支援専門員、社会福祉士・株式会社ツクイ 多摩南エリア エリア長)

■PROFILE

石岡 基(介護支援専門員、社会福祉士)/株式会社ツクイ 多摩南エリア エリア長

介護老人保健施設、特別養護老人ホームの勤務を経て、株式会社ツクイに入社。多職種連携において「顔の見える関係作りが必要不可欠」と話す石岡氏は、初めて担当した町田市で抜きん出たコミュニケーション力を発揮することとなる。地域をよくするための関係づくりが重要だと考え、自ら医師会や行政などに足を運び、連携不足という課題解決に向けて会社・職種を越えて取り組んだという。その結果、石岡氏の思いが関係者に伝わり現在の町田市の連携は非常に活性化しているそうだ。そこで得たスキームを次に担当する多摩市、日野市でも活かし、多職種連携の推進者として積極的に活動している。

▲今井 儀氏(介護支援専門員、社会福祉士、医療福祉連携士・株式会社ツクイ 地域戦略課 スペシャリスト)

■PROFILE

今井 儀(介護支援専門員、社会福祉士、医療福祉連携士)/株式会社ツクイ 地域戦略課 スペシャリスト

仙台市若林区の地域包括センターの社会福祉士として株式会社ツクイに入社。入社2年目に東日本大震災を経験。そのような中でも各避難所を回り地域の人々が不活発にならないよう体操教室や健康相談を行い地域のために活動したという。その後仙台市内のデイサービスや事業所の管理業務を行ったのちに、現在は地域戦略課・スペシャリストとして、社内教育や地域連携のために日々尽力している。

シンプルで安全なICTツールの利用による業務効率化

 それぞれ異なるエリア・業務を担当する二人だが、共通していたのはMCS導入前までの連携ツールは電話・FAXが中心だったことだ。「それまでは電話やFAXが一番だと思い込んでいました。もちろん誤送信も含めてリスクがあることは認識していましたが、行政も含めまだまだFAXでなんでも連絡が来ていたので、そこから違うツールに切替えることは考えていませんでした」(今井氏)。
 また石岡氏は、連携面でのもどかしさを感じていた。「私自身もそうですが、異動や退職などで担当者が変わります。その際、それまでに築いた連携施設との関係が断ち切られてしまうこともありました。多職種との連携にICTツールを使えば、連絡を取りやすい環境も維持され、それまでのやりとりは残るので、継続した関係を保ちやすいと考えていました」(石岡氏)。

 石岡氏は6年前にMCSと出会う。多くのエリアを担当してきた経験の中で、地域や多職種との連携をスムーズにするためのツールとしてICTの活用を探していた中での出会いだった。セキュリティ面の強固さも、利用を後押しした。個人情報を扱うことが多々ある中で、MCSは3省2ガイドラインに準拠して利用できるツールであることがツクイにとっても、連携相手にとっても安心感に繋がると考えた。
 実際に利用すると、石岡氏自身の業務にも変化があった。
「SNSは業務では利用していませんでしたが、MCSを使い始めてからは、職場でもスムーズに連絡が可能となり、業務効率がとても上がりました。現地に行くことが難しい時や、電話しても繋がらないなどのストレスから少し解放されました」(石岡氏)。さらに一般的なSNSとは異なり、MCSは業務で利用するツールのため、距離感を保って使用できる点も評価した。「仕事とプライベートを分けることは非常に大事です。MCSは仕事で使うものなので、プライベートと距離感を保てるのは大きいです。連絡通知をオフにする機能もあるので活用しています」(石岡氏)。MCSはSNSとして簡単に連絡をできる反面、プライベート時でも常に連絡がきていないか気にしなければいけないと不安に思う方もいる。石岡氏の様に、あくまでも業務で使う連絡ツールとしてプライベートと分けて運用することで、負担なく利用できる。

 今井氏がMCSを知ったきっかけも、社内の動きであったと話す。「社内でMCSをテスト導入することになり、当時から現場担当として様々な地域連携を行っていたこともあって、私が所属していた仙台の事業所でトライアルが実施されました。これがMCSとの最初の出会いです」(今井氏)。SNSが世間に浸透し始め、震災時にも有効な連絡ツールとなった話を地域のクリニックの医師達から聞いており、今井氏自身もICTツールを上手く活用していく必要性があると考えていた。一方で、利用当初は慎重だったとも話す。「正直な話をすると、セキュリティの理解が十分にできていなかったことや、自分自身のスマートフォンの使用も少ない方であったため、私が理解をして現場やお客様のご家族に説明できるのか最初は不安もありました」(今井氏)。新しいことを始める際には、その必要性を感じている人でも不安は残る。今井氏も、少しずつ始めることで、懸念点を解消し、徐々にMCSの利用を周囲にも広めていった。

多職種やお客様とそのご家族との関係性強化に

 新しいものを取り入れる際はどうしても抵抗が生じる。しかし、石岡氏のMCSの第一印象は『自分の仕事効率が上がる』という前向きなものだったという。
「電話・メール・FAXでの情報共有はありましたが、一部の方しか知らなかったり後から知る情報があったりしたので、もっとうまく関係機関と連携がとれたらいいなと思っていたところでMCSと出会い、『これだ!』と確信しました」(石岡氏)。まずは自分自身が使い方を勉強し、社内や社外に対しても『今の連絡手段と併用して使ってみませんか?』と提案したという。その中で、当時担当していた多摩市がMCSを使い始めようとしているタイミングで石岡氏もその立ち上げのメンバーとして声がかかり、本格的にMCSを使い始めた。
 多摩市でも過去に町田市で得た連携のスキームを参考に、自ら交流の場を設けコミュニケーション作りに励んだ。徐々に石岡氏の思いに賛同するメンバーが増え、地域連携の活性化に繋がったという。

▲石岡氏が参加している町田市のグループ。研修会の案内など多数のメンバーへ連絡する際、MCSを利用することで漏れなく一度の投稿で共有することができるため便利になったと話す。内容を確認したということを知らせるため「了解ボタン」を押して確認したことを示している。

 石岡氏は、同業他社との連携はお客様のケア向上にも繋がると話す。
「複数のデイサービスに通われているお客様がいらっしゃいましたが、それぞれのデイサービスでの目標が異なっていたのです。目標が違えば訓練も異なりますのでお客様を混乱させてしまいますよね。そこで目線合わせをするために、MCSを使って訓練内容やお客様の状況を共有することで、次回の訓練内容について1つのチームとなってやりとりが活発化していきました」
「結果として、車椅子生活だったお客様が1年経たずに杖歩行ができるまでに改善し、自宅で暮らすことができるようになったので、ご家族も本当に喜ばれていましたね。連携って本当に大事だと思いましたし、お客様やご家族の笑顔を見ると『やってよかった』と自信にも繋がりました」(石岡氏)。
 このように、担当する地域全てにおいて『顔の見える関係作り』に励んだ石岡氏は、以前担当していた地域からもいまだに声がかかると嬉しい悲鳴をあげている。しかし、石岡氏にとってその声は活力に変わっているに違いない。

▲石岡氏はじめ同業他社のメンバーが幅広く参加し情報連携を行っているグループ。会社の枠を越えて連携がなされている。

 今井氏がMCSによる連携の有用性を実感したのは、看取り期のグループに参加したことがきっかけだった。「看取り期は医療と介護の連携をより一層密に取る必要があり、医療と介護に壁があると成立しません。互いに共通の思いを持ち理解し合うための手段として、MCSはとても役に立ちました」(今井氏)。

MCS活用による効果や課題を見える化

 MCSが連携強化に繋がると肌で感じた今井氏は、自身が担当しているエリアでMCSの導入を開始した。「MCSが便利なツールだと頭の中でわかっている方は多いのですが、ICTツールが苦手で消極的なスタッフもいました。メンバーでフォローしながらMCSの利用を始め、1年が経過したところで、利用状況や使用感についてアンケート調査を行いました。感想としては、通常の連絡手段よりもMCSの方が『タイムリーに情報共有ができた』『写真や動画の共有でより正確な情報を得ることができた』という声が寄せられました。実際使ったスタッフの声は、まだ利用していないエリアのスタッフにとってイメージが沸きやすく、『私でも使えそう』という安心感にも繋がると思い、資料に纏めて現場に共有しています」(今井氏)。※アンケート調査の結果は下記参照。

 また、課題も見えてきたという。まずは同社のルール上、デスクトップ型の端末でのMCS利用は可能だが、持ち運びができないため移動先でのMCSの利用ができず、事業所に戻って投稿しているそうだ。
「どこでも使える連絡ツールですので、現場のスタッフがもっと便利に使ってもらえるように、スマートフォンやタブレットなど持ち運び可能な端末の提供依頼を社内の関連部署に行っています。これからも現場の声を拾い上げて課題解決の支援を行うことで、働きやすいと思える会社にしていきたいです」(今井氏)。

▲今井氏が作成した、担当エリアのケアマネジャー、デイサービス事業所を対象に検証したMCS活用効果・展望をまとめた資料。

コロナ禍でも、変わらない連携が可能に

 担当エリアにおけるMCSの利用促進のため、エリア会議などで今井氏が提案・説明を行っている。新型コロナウイルスの感染拡大で対面のコミュニケーションが取りづらくなった状況でも、通常業務を継続していくためにMCSを使うことで、今まで以上に質の高い情報共有を行えることが明らかになった。
「社内での利用が浸透すると、他施設との連携にも使いたいという声がでてくるんです。そこで他施設への提案資料として、チラシを作成・活用しました。反応を伺うと、例えばあるケアマネジャーが医療機関に連絡する際、診察中で忙しいのではないかなど気を使って連絡できないことがあると仰っていたのでニーズはあると思いました。新しい取り組みへの抵抗感や不安感を取り除くために、使い方や疑問点をサポートすることで徐々に利便性が良いことを実感してくれました」(今井氏)。
 現在16万人以上の医療介護従事者に利用されているMCSであるが、地域や施設で使用することが比較的早く決まるものの、利用するまでにある程度の時間と労力がかかる。今井氏は、現場管理者と連携して現場の後方支援を行うことで、社内外のMCS利用拡大に努めている。

▲今井氏が作成したMCS紹介資料。他施設にMCSを提案する際にスタッフが活用している

 石岡氏もコロナ禍におけるMCS利用は情報共有に役立ったと話す。石岡氏が担当するエリアでは、市から十数カ所の高齢者住宅における相談援助業務を受託しており、各施設に「協力員さん」を配置している。協力員さん全員がMCSに登録していたため、コロナ禍による自粛の影響で従来のように各施設を周ることが困難になった際も戸惑うことなく連携がとれた。「日々の業務連絡や、施設でトラブルがあった際にもすぐにサポートができます。また、みんなが一つのグループに入っているので、トラブル時の対策を全員で共有することができます。コロナ禍で行動制限がある状況の中で、本当にMCSがあって良かったと思いました」(石岡氏)。
 対面でのコミュニケーションが難しい状況下だからこそ、石岡氏は自分からMCSで積極的に情報を発信している。協力員さんたちにも返信の強要はしていない。「『了解ボタン』が押されると見てくれているとわかりますし、返信がきたらラッキーぐらいの気持ちで発信しています」(石岡氏)。従来のように対面での顔の見える関係が築きにくい中で、MCSは新たな関係構築のスタイルとしても活用されている。

▲石岡氏が参加している各施設の協力員とのグループ。対面のやりとりができない場合もMCSで日々の情報共有が可能になった。

MCSの利用でスタッフのモチベーションに変化

 今井氏は、MCSの利用によって突発的な受診による時間外勤務やスタッフの勤務構成に変化があったことも紹介してくれた。
「MCS導入前の2014年と導入後の2019年で比較すると、時間外勤務が約半分となりました。MCSの導入によってスムーズな情報連携が可能となり、業務負担が軽減したことも一因ではないかと考えております。また、入社5年以下の職員と5年以上のベテラン職員とで、夜勤対応するスタッフの構成について比較検証すると、導入後では5年以下の職員でも夜勤に入る割合が上がっています。現場からのヒアリングで、何かあった際にはチャットを含めて連絡が随時取れるという安心感があることはわかっていたのですが、数字で比較することで、夜勤に入る負担感がMCSで低減されてきていることが改めてわかりました」(今井氏)。
 さらに、多職種との連携では、ベテランの職員になるほど経験を基に関係を構築していけるが、新人では負担に感じることも多い。MCSを介したコミュニケーションは、そういった新人職員の負担を軽減し、定着・育成に非常に有効だったことがアンケートからわかったという。「外部のクリニックさんとの会話の中でも『うち、MCS使っているよ』とMCSが話題にあがることもあります。MCSを利用することで、新しく、かつ強固な関係性構築にも繋がり、現場職員の育成定着にも影響を及ぼせることが数字からもわかってきたなと思います」(今井氏)。あくまでも今回紹介した結果は一例であり、さらに事例を増やして検証していくことが必要だと今井氏は話す。今後も、MCSの利用が現場に与える影響について注目していきたい。

▲MCSが実用性の高いツールと感じ、外部との連携にも利用しているスタッフがいる。

介護の現場を笑顔にするために

 これまで地域で連携の推進役として汗をかき、より良い介護の実現を目指してきた石岡氏と今井氏。最後に「介護」と「連携」に対する思いについて話してくれた。
「世間的には介護って誰でもできると思われているし、本当にそう思って来る人も多いですが、決してそんなことはありません。気持ちだけではどうにもならないですし、介護職は“職人”というイメージを私は持っています。“俗にいう介助するだけの簡単な仕事”ではない、ということです。一人ひとりの職人が集まったチームで、お客様の日常生活を支える仕事です」(石岡氏)。
 そう話す石岡氏に「介護職とは?」と質問をすると、予想外の答えが返ってきた。「エンターテインメントです」(石岡氏)。この言葉には、石岡氏の介護職に対する真摯な思いが込められていた。「例えばデイサービスで考えた時、来ていただいた人に対して本当に笑顔で満足していただく。でも、その満足って何なのか。お客様は集団でいますが、重要なのは一人ひとりに満足していただくことです。そのためには、一人ひとりの表情を見て、その場で判断して接することが必要になります。だから介護職にも、いつもエンターテインメントだと言っています。介護だけする人じゃないのだと」
「現場でお客様と一番寄り添い、『あなたがいるから私は来ている』と言ってもらえる存在もまた介護職なんだと思います」(石岡氏)。
 『あなたがいるから』と言ってもらえることを石岡氏は大切にしている。そうした関係は介護職だけで完成することはできず、他の職種、事業所との連携が重要となる。

 両氏は関係を作る上で最も重要とするのが、「顔の見える関係」であると声を揃えて言った。その顔の見える関係というのは、ただ仲良くなるのではなく、地域活動を一緒に行うことや、お客様のために本当に質の高いサービスを提供することが求められるということである。
 また、石岡氏はデイサービスにおいて、他社との連携にも積極的だという。「デイサービスは、最も連携ができないサービスと言われています。しかし、お客様は複数のデイサービスに通っているケースも多いです。例えば、認知症のお客様に対する対応がそれぞれで異なると、本人を混乱させてしまう。認知症ケアの中で、やはり対応方法というのはある程度統一しなければいけない。本来ケアマネジャーさんが調整できれば良いのですが、全ては難しい。だからサービス事業所同士で連絡会を作って繋がろうと思ったのです」(石岡氏)。

 今井氏は、人と人との関係を作るためにMCSを活用することを社内に向けて発信している。
「まだMCSを利用している事業所は少ないので、サポートしながら導入事例を増やして、現場から便利なツールだと実感してもらいたいです。そのためには人との関係構築が重要です。ITやアプリはツールであって、そこには人と人との関係性が当然あるので、それを大事にしながら、MCSをコミュニケーションツールとして現場に根付かせるというのが私のミッションの一つだと思っています」
「どんなツールでもいいと思うかもしれませんが、安全性が担保されて無料のMCSをまず使ってみて慣れていってほしいな、という思いがありますし、たくさんの人にシェアしていきたいです」(今井氏)。

 

 医療介護や地域連携に携わる方は人との繋がりがないと成り立たない。現在多くのチャットツールが存在しているが、「MCSは患者さんやお客様のためだけでなく、医療と介護の壁を越えて繋がるための共通のツールで、人間味や深みを感じた」と話す今井氏。人との繋がりをMCSがサポートし、MCSがきっかけで更に人との出会いが生まれる、この効果を一人でも多くの方に味わってもらいたいと願う。
 熱い思いを持ち、同業・異業の垣根を越えて、自らが行動して連携を推進していく石岡氏、今井氏の様な存在が地域にいることによって、地域連携が活性され、より良い介護が実現されていくと感じた。

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