コミュニケーションツールが支える医療介護者の連携

「外来診察」と「在宅医療」を両立する情報連携(香川・高松市)

高松市香南町にある綾田医院は、祖父・父・綾田潔院長と三代にわたってこのエリアで開業しており、地域住民の信頼も厚い。外来診療も行いながら、在宅の支援診療所として多くの患者をサポートしている。かつては農業に従事する世帯が多く、3世代・4世代同居も珍しくなかった香南町。しかし最近はライフスタイルの変化もあり、自宅での在宅療養は減っていると綾田氏は言う。「色々なサービスを組み合わせて在宅介護ができないことはないのですが、四国では施設数や入院病床が全国平均より多いこともあって、施設を利用することが多いようです。ケアマネジャー(以下ケアマネ)さんの意識にもよるのでしょうが。8〜9年前は20人程だった個人宅への訪問診療が、今は6〜7人になっています」。在宅ではなく施設での看取りが増えつつある現状を踏まえ、いかに手厚く、満足のいく医療を地域に効率的に提供できるかを常に考えていた綾田氏がたまたま目にしたのがメディカルケアステーション(MCS)。施設と医院との連携に使えるのではとすぐに感じ、2018年1月に導入した。使い始めて1年弱という短い期間だが、日常業務にMCSを組み込んでいる綾田医院。その実情を紹介しよう。

この記事のポイント!

・外来診療と在宅医療の両立のための業務効率化を目的として1年前にMCSを導入
・医院の関連施設であるサ高住では患者のバイタルなど日々の情報をMCSで共有
・ファクスの削減、申し送り時間の削減など業務が効率化
・必要に応じて外来患者でもMCSを活用している

24時間見守れる施設だからこそ、連携が迅速に生きる

 外来診療も行いながら、在宅療養支援診療所として綾田医院がサポートしているのは、綾田医院の関連施設でもある、デイサービスを備えたサービス付き高齢者住宅(以下サ高住)「翔鶴」のほか、特別養護老人ホーム2カ所、有料老人ホーム2カ所、認知症グループホーム1カ所。そのほか個人宅に6〜7軒訪問しており、2018年12月現在で、約34人の患者の情報をMCSで共有している。

 MCSでの情報のやり取りは、末期がんや心不全末期のように状態変化が著しい自宅訪問診療患者や、頻回に看護・介護ケアの必要な施設入所中の患者について、関わっているすべての職種と連携するために使われている。中でも頻繁に書き込みがあるのがサ高住の看護スタッフである。サ高住の看護師、土居範子氏は、毎日表に記録した全入居者のバイタルを撮影してアップしたり、医師の往診での指示を書き込んだりするなど、看護記録的にも使っている。「医師やスタッフが、アップした情報に『了解』を押してくれるので、ちゃんと情報共有ができていることがわかり、安心します」(土居氏)。入居者のバイタルサインやドクター指示、看護記録をMCSで即時にスタッフ全員に共有できていることは、サ高住を管轄する高松市住宅課の監査で高く評価されたという。

▲毎日バイタルを記入し、その場で撮影してMCSにアップ
▲書き込みを確認した人からは「了解」が入るので安心

 日々の記録をチェックできるということから、サ高住で1型糖尿病患者の症状が大幅に改善した例があった。「何度も糖尿病教育入院していた患者さんでしたが、退院後はすぐにコントロール不良となっていました。サ高住入居後にフリースタイルリブレを使い、大幅に症状の改善ができました。リブレで血糖を計測しても、ライブでチェックしないと意味がない。例えば外来だとデータを見るのが1カ月に1回、まとめてだったりしますよね。せっかくサ高住に入って24時間測定できるわけですから、パソコンに表示されるデータ画面を撮影して1日ごとにMCSにあげてもらい、前日のリニアな血糖動態を確認しながらインスリン注射量の増減を指示しました。すると絶大な効果があって、最終的にはインスリン注射量を1/3程度に減量し、低血糖発作も防げるまでに改善できました」(綾田氏)

 土居氏によると、MCS導入前は、血糖値がかなり上下したなど何かあった時には医師に連絡するものの、毎日電話でデータ報告することは現実的には難しかったという。「MCSを使い始めてからは、時間を気にせずにアップできるのもありがたい点ですね」

▲リブレのデータをチェックし、すぐに指示ができる

 申し送りの時間が減ったのも思わぬメリットだった。「サ高住と医院で毎朝テレビ電話を使って申し送りをするのですが、以前は40分ほどかかっていたのが10分ほどに短縮されました。夜勤帯の状態をMCSに上げた上でテレビ電話につなぐので、”MCSを見ておいてください”だけで済むんです」(土居氏)。

 サ高住の入居者で何か気になる状況がある場合、画像を添付できるのが役立つとも土居氏は言う。「デイサービスでの入浴時に褥瘡の状態が気になったり、打撲や擦り傷ができた時でも、綾田医師に”こんな状態なので確認ください”とMCSにアップすれば、すぐ伝わります」。

 画像だけでなく動画も利用しているが、患者の状態をスタッフ全員が共有できるメリットもある。「ご飯を食べていなかった患者さんで、ゼリーから挑戦しましょうとなった時、実際に食べているところを動画に撮って嚥下状態を見てもらったこともありますし、デイサービスで歩行訓練を始める時、平行棒を使ってどう立ち上がるか、平行棒を持ってどれくらい歩けるかという状況をスタッフに共有したこともあります」(土居氏)。医師が患者の状態をチェックするだけでなく、食べられるようになった、歩き出すようになった、など患者に対してのスタッフの関心が高まり、患者にとってより良い状態をみんなで作ろうという意識が生まれやすくなるのだ。

「MCSを始める前は、綾田医師からの指示は看護師には届くけれど、介護士まではなかなか伝わらず、情報共有に問題があったり、行き違いがあったりしました。しかし今は、医師の指示がわかりやすく伝わりますし、看護師が今どういうことをしているのかも、ある程度は理解できます」と導入後の変化を実感するのはサ高住の前田高洋介護士だ。家族から問い合わせがあった時も、以前は「わからないので看護師に聞いてきます」ということが多かったが、タイムラインを見れば流れが理解できるため、大まかな説明もでき、安心してもらえるようになったと感じるという。

 より状況に即したケアプランが立てられるという意味では、MCSはケアマネにとっても非常に有用だが、参加をためらうことがないわけでもない。「うちは大丈夫でしたね。”居ながらにして状態がわかるのが便利でしょう”と画面を見せると、すぐ入っていただけました。タイムラインを見ていれば、そろそろプランを変えたほうがいいかもしれないということもわかりますし、その段階でケアマネの書き込みも入ります。やはり、MCSに入っているケアマネは臨機応変さが違いますね。こちらが色々お願いしても、実際に裏付けがないとピンと来ないと思うのですが、刻々と変わる状況がMCS上で流れていると、本当に調子が悪そうなんだ、と説得力もあると思いますね」(綾田氏)

 MCSを導入したことで、患者一人ひとりの日々の情報をスタッフが共有できるようになり、全員が同じ方向を向いて患者や家族に接することができるようになったのも、大きな成果だといえる。

▲デイサービス「翔鶴」。入浴時に褥瘡の状態に気づくこともよくある
▲MCS利用当初から両施設共に積極的に活用している。綾田医院としては患者1人あたり月2〜3件程度の書き込み、翔鶴では利用者1人当たり月14〜18件の書き込み、と効率的に活用している。末期がん患者が入所した時や糖尿病患者の血糖値コントロールをしていた時は書き込み件数が増加したが、症状が落ち着くとともに減ってくる

訪問介護ステーションとタッグを組み外来患者にも対応

 施設や在宅の患者だけでなく、外来患者でMCSを利用しているケースもある。「外来で通院中の患者さんですが、認知症があって薬の管理が難しい方がおられます。同居のご家族も網膜症で目が見えないので、訪問看護に入ってもらい、日々の状況を訪問看護師にアップしてもらっています」(綾田氏)。つい最近も、低血糖発作で綾田医院に救急搬送された際、処置を行っていることや状態を医院の看護師がMCSに書き込み、それを見た訪問看護師とその後の対応についてのやり取りが迅速にできたという。「この方は訪問看護師4人が交代で訪問されているので、MCSだと全員に情報がすぐに共有できると思ったのが、使い始めた理由です。書き込むのは私ではなく、上げてもらった情報を読んで確認しています」

▲緊急搬送された患者が帰宅した後も、細かくフォロー

同じ訪問看護ステーション所属であっても、1つのIDではなく、それぞれの看護師がアカウント登録しているのも、理想的な使い方だと言える。

 また、残念ながら患者が亡くなったために実現はしなかったが、肺がんの末期患者で、妻、娘が入った患者グループを作ろうとしたこともあった。妻と娘が考えている方向性が違っていたため、それぞれ個別に電話で綾田氏が対応していたのだが、グループができていれば、情報共有はよりスムーズにいったことと思われる。

活発かつ気軽に書き込めるのは「便利」で「楽」だから

 綾田医院が支援している施設は全てMCSに登録しているが、導入を強く勧めたのは以前から施設との連絡業務を担当していた綾田医院の看護師倉掛桂子氏だ。「以前は、患者様の変化の報告、点滴の指示や指示変更などを各施設に電話し、記録を残すために手書きで紙に書いてファクスでも送っていました。毎日、50〜60件、紙がもったいないと思うぐらい。それが今は1日1件。私は手書きより打ち込むほうが早いので、時間もかなり短縮できるようになりました。外来の診察介助しながらでも入力できるので、2つの仕事が一度にできるようになったのも楽でしたね」

 「連絡担当の看護師が苦労しているのを見て、この時代、もう紙じゃないだろうというのは日々感じていました。しかもファクスだと1対1でしか伝わらない。MCSだと書き込んだ瞬間に、全員にすぐに広まる。やはりそうじゃないと、ということです」とは綾田氏の弁。

▲綾田医院のスタッフの皆さん。左から看護師倉掛桂子氏、院長綾田潔氏、看護師綾野照代氏、事務木内三鈴氏

 業務が増えるのでは、と不安がっていた施設にも、「とにかく便利だから」と説得した倉掛氏。施設側のスタッフも、身近なSNSで操作に慣れていた人が多く、一度使い始めると比較的スムーズに書き込んでもらえるようになった。

 また、挨拶などはなしで、必要最低限のことだけ書き込めばいいというのも、使う側のハードルを下げているようだ。サ高住の土居氏が書き込むのは変化のある患者のみ。何の変化もない患者は、2週間に1度、綾田氏の往診時に短いコメントを入力するだけ。「本当にカルテに入れるようなイメージで、患者さんの状態と、こういう処置をしていますということだけ。スタッフに必要なことが伝わればそれでいいので」。特に書き込む際のルールを決めたしたわけでもなく、やりやすいように使っていると自然にそうなったという。

▲カルテに書き込むように必要事項だけを記入
▲変化のない患者の記述は2週間に一度、この程度で済む

 では綾田氏はMCSをいつチェックして、どう書き込んでいるのだろうか。

「画面を見るのは基本的に朝起きた時と寝る前の1日2回です。情報は看護師などスタッフがアップしてくれることが多いですね、日中は外来診察、検査ばかりなので、外来看護師が情報を取捨選択してくれます。直接指示が必要な場合は日中にも入力しますが、僕が入力するときは、大体音声入力です。最近の音声入力精度はかなり向上しています。パソコン、スマホ、タブレット、どれででも使っています」

 高松市医師会でもMCSの導入が前向きに進んでいるので、今後は更なる広がりも期待できそうだ。綾田氏は多職種連携の今後について最後にこう語った。「香川県内の医療ネットワークとして利用されているK-mix+(かがわ遠隔医療ネットワーク)では、基幹病院と診療所が縦のラインでつながっているのですが、多職種との横のつながりが今まではありませんでした。MCSがより多くの医療・介護機関で使われるようになれば、縦・横の連携がしっかりできて、地域医療がより充実したものになると思います。MCSの導入だけで多職種連携が完結するものではありませんが、少なくとも連携の即時性、深化は向上するでしょう。そこには働き方の変革もあり、関わる人々全員の多少の意識改革も必要です。しかしながら、これまで見ていただいたようにMCSに関してはメリットが極めて大きいため、ストレス感は少ないのではないでしょうか。今後MCSはオンライン診療ツールとの連携を検討していると聞いております。現在、生体情報感知機器や検査機器がIoT化されることにより、オンライン診療ツールにリアルタイムでバイタル、検査結果を自動的に取り込むことが技術的には可能です。それら情報がMCSに共有されるようになると、外来診療、在宅診療、介護サービスの垣根を越えた、医療介護データが極めて省力化されて共有できるようになり、さらに質の高い多職種連携が進むのではないかと期待しています」

取材・文/清水真保、撮影/高城幹人

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