コミュニケーションツールが支える医療介護者の連携

「心」の連携が患者を支える~在宅医療の現在地~(東京・三鷹市)前編

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「心」の連携が患者を支える~在宅医療の現在地~(東京・三鷹市)後編

2013年にリリースされたメディカルケアステーション(以下MCS)の第2号ユーザーが東京都三鷹市の東郷医院 院長である東郷清児氏だ。外来や入院に続く第3の医療といわれ、その重要性に注目が集まる在宅医療(訪問診療)だが、それを行う上で何よりも重要なのが患者を中心に見据えた多職種メンバーの連携だ。約30年間在宅医療の現場と向き合い、リリース当初からMCSを活用してきた東郷氏に、在宅医療の過去・現在・未来について率直に語ってもらった。

▲東郷医院 院長の東郷清児氏。大学時代はラグビー部でも活躍

■PROFILE

東郷清児(医師)/東郷医院 院長

専門は内科・老年期精神神経医学。大学在学中に障害児施設での研修に参加したことで、医療と福祉のネットワーク作りの重要性を感じるようになり、在宅医療を志し上京。病院勤務の傍ら武蔵野市内のクリニックで在宅医療に従事する。同市内の病院の在宅診療部部長を経て2006年より在宅療養支援診療所の院長に。医療に最も必要なものは人間同士の『信頼』であり、相手を想う『心』であるとの信念を持って患者と向き合う。

四半世紀以上にわたり東京で在宅医療に携わる

 大学在学中に在宅医療を志すことを決意し、当時、「福祉で日本一」と言われていた東京都武蔵野市に上京して以来、日本の超高齢社会への変遷を武蔵野市や三鷹市の在宅医療の現場に携わる中で見つめてきた。東郷氏は、2000年の介護保険法の施行以前の在宅医療やそれ以降の数々の改正に伴い、医療・介護のあるべき姿を模索してきたという。今後ますます在宅医療を取り巻く環境は厳しい状況になると予想されるが、在宅医療の担い手と患者さんの信頼関係に基づくあるべき姿を、日々の診療を通して連携する全てのメンバーに伝えたいと考えている。

 また、医療やケアに携わるすべての者は、『人』に向き合い、その人を想う『心』を持ち続けることが大切だと東郷氏は語る。「患者さん一人ひとりが、今まで生きてきた人生をベースにこれからをどのように生き続けたいのか、また、やがて訪れる死をどのように迎えたいと思っているのか。そのためにどんな医療、介護を受けたいか。患者さんが希望する選択肢を、高い質を保ちながら提供し、住み慣れた環境で安心して暮らし続けられるように、関わるすべてのメンバーが単なるテクニックでなく心を込めてサポートすること、ラポールを築くこと、それが在宅医療の最も重要な役割だと思っています」。

連携に苦労した在宅医療開始当時、そしてMCSとの出会い

 私が在宅医療を始めた当時、在宅医療についての知識を持つ人は少なく、多くの患者や家族は、医者は呼べばすぐに飛んでくるものだと考えていた。実際、緊急往診の依頼に「これから急いでご自宅に向かいます。20分くらいお待ち下さい」と答えたところ、患者の夫に「ふざけるな、妻は苦しがってるんだ。20分も待てるか!」と怒鳴られ、ガチャンと電話を切られたことがあった。長年暮らし続けた老人ホームで最期を迎えたいと常々訴え続けていた101歳のお年寄りが老衰で昏睡状態に陥ったとき、施設の責任者からは「呼吸が止まったとき10分以内に来ると約束してくれなければホームでは看取れない」と言われたこともあった。呼ばれたらすぐに往診に駆けつけなければならないという強迫観念にかられていた東郷氏は、電車で20分の新宿にさえ出掛けられなくなった。当時は「連携」という言葉や意識もなく在宅医療は孤独なものと感じていたという。

 2000年から介護保険制度が施行され、在宅患者の一人ひとりにケアマネを中心とした在宅の多職種チームが結成されることになった。今と同じような形とまではいかないが、医師や訪問看護師、ヘルパーやリハビリ、行政などとチームを組んだ。質の高い医療・介護を提供するためには、チームの連携が取れていることは必須だったが、連絡手段として使われていたのは電話やポケットベル、ファクスだった。「まだスマホもSNSもない時代です。ポケットベルが鳴ると、車を止めて近くの公衆電話から電話をしていました。当時は自宅の電話番号も患者さんや関係者に伝えていました。たまに鹿児島の実家に帰るときは、実家の電話番号も教えました。実際、東京から電話が掛かってきたこともありましたね。また、電話かファクスは基本的には1対1の連絡手段なので、どうしてもチーム全員で情報を共有するのが難しい。今のように複数の番号へファクスができるような機能もありませんでしたから、緊急の連絡が漏れたこともありました。電話の内容をスタッフが私に伝える際、内容が正確に伝わらないこともありましたし、大量のファクスで情報が混乱してしまったり、送られたはずのものが届いていなかったりで『2、3日前に送ったはずなんですが』というようなこともありました」。

 患者宅の連絡ノートもそうだ。医師が患者宅を訪問するのは2週間に1度だが、ヘルパーが記入した2週間分の食事や排泄、入浴などの記録全てに訪問時に目を通し、その中から重要なことを探すのは難しいし、その時間がもったいない。ノートには医師からの指示や徹底して欲しいことを赤字や青字で強調して書き、クリニックに戻ってから、電話やファクスで全てのメンバーに共有して徹底する。カンファレンスの連絡などもタイムラグが発生し全員が集まれなかったり、キーパーソンが欠席したりすることもあり、せっかくの機会が活かしきれないこともあった。 その後、自動車電話、携帯電話、メールと連絡手段は進化して、連携は徐々にしやすくなったというが、「漏れのないように努力しても、100%というのは難しい。在宅医療で診療以上に難しいのは他の事業所とのリアルタイムの情報共有だと実感しましたね」。

 携帯電話が登場し、メールでのやり取りができるようになり、これが情報共有手段としては限界だと考えていた東郷氏が出会ったのがMCSだった。IT関係に詳しかった知人の子息の勧めで、ユーザー第2号としてMCSを使い始めることとなる。2013年3月のことだ。

 その頃、東郷氏自身はITツールに興味がなく、かなり苦手意識があったそうだ。MCSについても、「こういう操作は本当に苦手でわからないと話したのですが、難しくないからと言われて操作を教わり、なんとかできそうだなと。それでまずクリニックに導入しました」。院内の情報共有から導入してみると、まさに青天の霹靂のような衝撃を受けたという。「極端ですが、毎朝のミーティングが必要ないくらい情報共有ができるようになりました。申し送り事項や確認事項はMCSにアップすればいいですからね。検査結果や病状、質問や相談、クレームの内容や看取りについても次の朝には、全員が読んで知っている。こんなに有用性があるのかと、カルチャーショックでした」。

 MCSを導入すると、仕事が一つ増えてしまうと躊躇される場合も多いが、東郷氏はそんなことはないと断言する。「やってみればわかると思いますが、仕事の量も時間も減るんです。特にケアマネさんの仕事は確実に減ると思いますよ」。

簡単、便利、業務の改善…メリットを実感

 簡単・便利に使え、業務の改善にも役立つことを実感した東郷氏は、パソコンやスマホが苦手でありながら、在宅医療の多職種連携ツールとしてMCSを積極的に活用するようになる。そこで実感したメリットを東郷氏がまとめたものが下記だ。

1)セキュリティが強固

2)いつでもどこでも情報共有ができる

3)時系列で患者の経過が把握でき、リアルタイムで正確な情報共有ができる

4)患者の症状、リハビリのやり方などを写真や動画でわかりやすく共有できる

5)検査データや報告書、検査データの書類もPDFや写真で共有できる

6)スマホ、タブレット、パソコンで手軽にアクセスできる

7)多職種の様々な見方を共有できる

8)一度できた繋がりを広げやすい

9)メンバー間のフラットな関係が作りやすい

 MCSを使い始めてチーム間の連携は劇的に取りやすくなった。もちろん業務の煩雑さも改善されたが、東郷氏はそこで生まれた時間をどのように活用しているのだろうか。「患者さんと丁寧に向き合う時間に充てています。以前は情報収集にかなりの時間を使っていました。例えば患者さんを訪問する時間が30分あるとすると、情報を聞き取って確認するのに15~20分かかっていたかもしれません。それが事前にMCSで確認できるようになったので、しっかりと患者さんと向き合えるんです。病気だけじゃなくて、病気以外のことを知る時間が作れますよね。私はそこが一番大切だと思っています」。

(後編につづく)

取材・文/清水真保、撮影/千々岩友美

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