築き上げたチーム力で、コロナ禍でも変わらない働き方と患者/利用者サポート(千葉・浦安市)
この記事のポイント
・有限会社総合リハビリ研究所は、訪問看護ステーション事業、居宅介護支援事業、訪問マッサージ事業、相談支援事業、デイサービスと地域医療に特化した企業であり、7月からは新たにグループホームの事業をスタートした。
・MCSマニュアルを独自に作成しており、新入社員に対しての研修や、ITツールが苦手なスタッフに対して、スタッフ同士でサポートを行っている。
・自由グループは、社内の業務連絡や交通事故予防対策、コロナ禍における健康状況確認や情報発信など活発に利用されている。
障害をお持ちの方の自己実現に向けて
千葉県浦安市を中心に展開する総合リハビリ研究所(以下同社)は、訪問看護、リハビリ、鍼灸マッサージ、居宅介護支援事業所と幅広く地域医療に特化した企業だ。実施計画書に基づく従来型のアプローチに飽くことなく、社会参加を目的としたプロジェクトなど今までにないアプローチ方法を開発している。
「地域看護・リハビリの延長線上で1歩踏み込んで利用者さんの夢を叶える『ドリカムプロジェクト』は特徴的で、自己実現に寄り添うため、看護・リハ職が付き添ってあらゆるサポートを実施しその方の夢を叶えます。たとえば、利用者さんが以前のように家族ともう一度テーマパークに行きたいと言えば、当時の様子やその方が大事にしている想いを聞き取り、そこに寄り添います。そして状況に応じてチケット購入の代行や、現地で階段の上り下りをはじめとした介助的な支援から、家族だけで食事を楽しめるように事前の席予約など、寄り添うことを形にした支援をしています」そう話すのは同社総務課の安達氏。
異なる事業所との多職種連携に多く活用されるMCSを同法人内の情報連携に用いることで、コロナ禍においても変化無くサービス提供出来ていると話す同社から、普及までの道のりと活用方法を紹介する。
普及までの課題と取り組み
ICT化が進んだ現在でも現場のコミュニケーションは従来の電話・メール・FAXが主流だ。MCS導入のきっかけの多くはその代替え手段として検討されることが多いが、同社も例外では無い。2017年に同社に導入されたMCSは、今でこそマニュアルや社内研修が整備され全スタッフが利用しているが、そこに至るまで数年を要している。MCSは無料で導入しやすく汎用性が高い半面、普及に時間を要すことが全国共通の課題だ。
「看護師のルーチン業務は毎朝顔を合わせて申し送りをすることから始まるので、直接話したり電話で伝えたり、コミュニケーションに重きを置くイメージが強かったため、導入開始当初は私自身も含めて普及推進派は少なく、今まで通りのほうが早いと感じていました」
「普及が進んだ決定的な要因は、口頭だと消えて無くなる今までのコミュニケーションに比べ記録が残るなど、最初は見えにくかったメリットを感じたこと、汎用性の高さから活用方法のアイディアが各所から沸くようになり、最終的にはMCSを上手く使わないと業務が回らないと感じるようになったことです。1年以上はかかりましたが、今では無くてはならないツールとなりました」(看護師の大塚氏)。
MCSは全国の医師会や行政で正式採用され、北海道から沖縄まで活用されているが普及が進んでいない地域もある。要因は多々考えられるが、何れの地域もどういった課題をMCSで解決するか、目的が一致していないことが一つの要因となっている。共通の課題認識なくしてICTツールが普及している事例はほとんど見られないことからも、普及の第一歩は顔の見える関係作り、そして課題と目的の共通認識が重要だ。
スタッフの働きやすさを考えた自由グループの活用
「グループ名の頭に【管理】とついているグループは、総務が作成した会社公式のグループとして事業所や部署ごとに作成・運用しています。社員が入社した時には、既に所属のグループのメンバーに招待しており、後はスタッフが投稿するだけという状態にしています」(安達氏)。
「看護師のグループは、業務連絡と申し送りの連絡の2グループに分けて利用しています。スタッフが体調不良で休んだ際の担当の振替や、訪問する際の注意事項を発信して共有しています。『了解』ボタンを押すことで、誰が見たのかを確認しています。一方で、誰がみていないということもわかってしまいますが(笑)」(大塚氏)。
また、交通事故予防対策室という全員が参加しているグループを作成している。「訪問事業なので交通事故が起こる可能性があるため、今日の天気やタイムリーな天候状況を発信して、注意喚起をしています」(安達氏)。
グループの作成においては、事業所内で管理するために自由に作成することを禁止するというルールを作られているケースもある中、スタッフが必要に応じてグループを作成することを許可している。
「施設に訪問するスタッフがいますので、スタッフにとって施設の方とMCSを使うことによって業務効率化や連携強化に繋がるということであれば、自由にグループを作成していいというルールにしています」(安達氏)。
全ての利用者のグループを作成し、MCSで細かな情報共有
同社では、全ての利用者のグループを作成してスタッフ間の連携を行っている。各リーダーが利用者のご自宅に訪問し契約後、事務スタッフがグループを作成し、関係するスタッフを招待している。利用者には同社で使用するシステム共通のIDが割り振られ、MCSでもそのIDがわかるよう氏名欄に入力して社内管理を効率よく行っている。訪問時の利用者の状況はもちろん、事務所に電話連絡があったなど、利用者に関する細かな情報のやり取りを記載しており、MCSに全ての情報が共有されているため、スタッフは『MCSを必ず見る』ということをルールにしている。
「MCSに申し送りなどの情報があるので、MCSと電子カルテを併用して情報収集し、理解して利用者宅に訪問しています。ただ、本当に緊急の時は電話で連絡をとっていますので、状況に応じて使い分けています」(大塚氏)。
コロナ禍においては、全社員に対する情報発信と、事業所や部署のリーダー間で行う社員の健康状況確認の2つのグループを立ち上げたという。
「全社員には、ワクチンやクラスターの最新情報や訪問時の注意事項を発信しています。社員の健康状況確認のグループは、毎日大塚さんが各部署のリーダーに対してスタッフの健康状況の報告依頼を送っています。内容によってはセンシティブなものもあるので、必要に応じてMCSの『つながり』機能で1対1の連絡、または電話と使い分けを行っています」(安達氏)。と、社員に配慮した対応もMCS内で行われている。
2017年のMCS導入により、既に定着していた「働き方」
コロナウイルス感染拡大により日本でも多くの企業がテレワークを実施するなど働き方が変化している。同社のコロナ禍におけるスタッフの働き方とMCSの効果について尋ねてみた。
「コロナ前の訪問看護ステーションの業務スタイルは、事業所に行って申し送りをする、というのが定番スタイルでしたが、コロナ禍になって接触を控える働き方に変えざるを得ない状況になりました。私達はコロナ前からMCSを使っていたので、事業所に行かなくても仕事ができる働き方に抵抗なくシフトできたことが大きなメリットです。もちろん直接顔を合わせることは大事だと思いますが、感染リスクを高めてしまうことを考えると、会わなくてもMCSで情報共有ができたことで、業務への支障はありませんでした」
「コロナ禍が落ち着くまでにまだ時間がかかりますし、この業務の働き方はたぶん今後も続いていくと思っています。私達は2017年からMCSを使い始めたので、コロナ禍ではフル回転で利用できました。活用するまでに時間がかかると思いますが、MCSは新しい働き方の1つになると思います」(大塚氏)。
また、安達氏はパソコンやスマホ作業が得意ではないスタッフでもMCSは簡単に使えるということを話してくれた。
「事業所のスタッフは、私用携帯がiPhoneですと社用携帯のAndroidの使い方がわからず、メールのやりとりにも四苦八苦される方が多く、メールアドレスの登録から送り先を探すのに手間がかかっていましたが、MCSは名前検索で送り先が探せるので、とても直感的に使いやすいのではないかと思います」(安達氏)。
チームの支え合いによって実現する事業所全体でのMCS利用
最後に、これからMCSを導入、または導入したけれどもなかなか使いこなせない、というユーザーに対してアドバイスをいただいた。
「『MCSを使ってください』では絶対に広まりません。事業所が抱える『何の』課題解決のツールとしてMCSを導入したいのか目的を定め、訪問スタッフだけではなく事務や総務が一歩踏み込んでサポートできる体制を整えると使ってくれるのかなと思います」(安達氏)。
「まずは起案した人がMCSを使ってみて、成功体験を重ねながら徐々にスタッフに普及して使ってもらう流れがいいのかなと思います。あとはITリテラシーが高い人が使い方やメリットを教えたり、周囲のフォローだったりが必要だと思います」(大塚氏)。
MCSを使いこなせないスタッフを置き去りにせず、チームで助け合ってフォローする、この体制が自然と同社全体の団結に繋がり、働きやすい職場となっているのだろう。