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心臓の病気を持つ人が、安心して暮らせる社会を(東京/群馬)中編

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心臓の病気を持つ人が、安心して暮らせる社会を(東京/群馬)前編

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心臓の病気を持つ人が、安心して暮らせる社会を(東京/群馬)後編

▲前列左から齋藤慶子氏(ソーシャルワーカー・ゆみのハートクリニック 在宅療養支援室室長)、高圓恵理氏(ゆみのハートクリニック看護師)、弓野大氏(医師・医療法人社団ゆみの 理事長)、後列左から田中宏和氏(医師・ゆみのハートクリニック院長)、堀部秀夫氏(医療法人社団ゆみの 理事・最高経営責任者)

心不全や循環器系疾患への苦手意識を解消したい

 心不全患者の在宅医療を続けるうちに、地域には心不全の専門知識をもった医師や看護師が少ないということがわかってきた。患者だけでなく、実は多くの医療介護従事者も、心臓が悪いというだけで不安を感じているという現実がそこにある。「慢性心不全の患者に在宅療養の継続は難しい」という先入観を少しでも取り除くことができれば、より多くの心不全患者が自宅で安心して過ごすことができるのではないか。同院には多くの専門医と認定看護師がいて、実際に心不全患者を自宅で診るという経験も積んでいるので、何かできることがあるはずだ。そんな思いから2018年2月に考案されたのが、MCSを使ったプラットフォーム「ハートケアステーション(HCS)」だ。HCSには大きく2つの機能があり、1つは、ゆみのハートクリニックからの情報提供。もう1つは、院外からの相談への対応だ。

 HCSに参加するには、まずMCSアカウントを取得し、HCS事務局からの招待を受けてメンバー登録をする。 参加費はかからない。 もともとMCSで繋がっている地域の多職種のほか、学会や講演会の際にチラシを配布するなど広く全国に呼びかけたことで、登録者数は約280人まで増えている。当初は病院の中で循環器の分野を担当する医師や看護師がほとんどだったが、現在のHCS登録者の職種は主に訪問看護師と病院看護師、医師が多く、ほかにケアマネ、リハビリ職やソーシャルワーカーなど多岐にわたっている。「そもそも心不全の患者は在宅では診られないと敬遠される傾向があったのですが、実はよく気をつけてフォローすれば大丈夫だということを広く知ってもらいたい、というのが私たちの思いです。このプラットフォームを活用することで、少しでも多くの多職種の人たちが知識を深めてくれればと思っています」(ゆみのハートクリニック院長・田中宏和氏)。

▲田中宏和氏(ゆみのハートクリニック 院長)
▲学会等で配布しているハートケアステーションのチラシ

試行錯誤しながらハートケアステーション(HCS)を運営

 HCSでは、慢性心不全看護認定看護師による循環器疾患の病態や管理に関わる情報を配信している。血圧、脈拍、呼吸といった基礎的な内容から、セルフケア、感染症予防、入浴など在宅医療の現場で役立つ内容まで幅広いテーマがピックアップされ、クイズ形式にするなど、要所を押さえてわかりやすく伝える工夫がなされている。担当は、高圓氏と大阪ののぞみハートクリニックに勤務する慢性心不全看護認定看護師の交代制で「2人で相談しながら毎回テーマを決めて作成しています。現場のニーズに合った情報を提供したいとは思うのですが、なかなか受け手側の反応がわからないので、院内のスタッフに話を聞いたり、HCSでアンケートを取ったりと、模索しながら進めています」(高圓氏)。

▲実際のハートケアステーションの画面

 HCSのもうひとつの柱として個別コンサルテーションがある。弓野氏のもとにはHCSを始める以前から、あらゆるツールで質問や相談が寄せられていた。「実は専門医からの相談が多いのです。循環器の専門医といってもさまざまで、僕はその中でも重症心不全を専門としていますが、普段は高血圧症やその他循環器疾患を診ている医師が心不全の増悪に直面すると、判断に迷ってしまうことがあります。そこで僕のところに相談が来るわけです」(弓野氏)。このような医師の不安解消もHCSの目的のひとつであり、何らかの問題に直面した参加メンバーからの相談に対して、自分たちだけではなく全国の医療介護従事者が自由に応えてくれれば、より議論が深まりプラットフォームが活性化すると考えた。もちろん多職種からの相談も想定しており、同院の在宅療養支援室室長を務めるソーシャルワーカーの齋藤慶子氏は別の面から現場の困りごとに対応することができると話す。「病院の医師からの『在宅の先生と具体的にどう調整したらよいか』といったもの、病院の看護師などからの『在宅で診る場合の患者の医療費負担はどれくらいになるか』、在宅医からの『カテコラミン製剤をどう使えばよいか』といった相談などがあります。心不全患者の特徴として、がんや神経難病などに比べて要介護度が低く認定されがちで、制度がまだ充実しておらず、介護サービスなどを利用しにくいという点があります。そこに悩む医療介護関係者はとても多いのですが、どうすればクリアできるかといった工夫方法についてアドバイスできます」(齋藤氏)。たとえば、制度の範囲では朝1回しかヘルパーが利用できないという患者には、服薬が1度で済むように医師に調整を依頼するなどの対応が可能になるわけだ。

▲齋藤慶子氏(ゆみのハートクリニック 在宅療養支援室室長)

 このように院内の多職種がそれぞれに忙しい本業を抱えながら、定期的な記事の作成、きめ細かい相談への対応などを行うのは決して楽なことではないだろう。それでもこの取り組みを続けられるのは、弓野氏以下クリニックの全スタッフが共有する使命感があるからだ。「私たちのミッションである、心臓の病気を持つ人々が安心して暮らせる社会になるために、外来診療や在宅医療で直接患者さんのサポートをしていますが、私たちが直接関われないところにも何か力になりたいという思いです」(堀部氏)。

▲堀部秀夫氏(医療法人社団ゆみの 理事・最高経営責任者)

 立ち上げから約1年半が経過し、いくつかHCSのコンサルテーションがうまく機能している事例もある。そのひとつが群馬県立心臓血管センターからの相談に応じたケースだ。弓野氏をはじめ、認定看護師、ソーシャルワーカー、理学療法士といったスタッフが質問内容に応じて適切かつ迅速な対応することで問題解決に繋がった好例である。

(後編につづく)

取材・文/金田亜喜子、撮影/池野慎太郎

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